2025.08.13

インターネットリサーチ

「カテゴリーエントリーポイント(CEP)」を正しく理解し、実務で活用するために

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近年、マーケティングの現場で「CEP(カテゴリーエントリーポイント)」という言葉を目にする機会が増えました。「CEPを調べたい」「注力するCEPを決めたい」といったオーダーも増え、調査現場や戦略設計で活用を検討する企業も急増しています。

一方で、CEPという言葉だけが独り歩きし、「差別化ポイント」や「商品の強み」「購買動機」といった従来のマーケティング概念と混同されるケースも少なくありません。CEPの本質は、消費者がある製品カテゴリーを思い出す"瞬間"を設計すること。これは従来のターゲティングやポジショニングとは異なる視点であり、だからこそ混乱が生まれやすいのです。

本記事では、CEPの定義から、他のマーケティング概念との違い、調査・分析の方法、PDCAへの落とし込みまで、正しく理解し実務で活用するためのポイントを体系的に解説します。

CEPとは何か?―カテゴリーを思い出す「きっかけ」の設計

カテゴリーエントリーポイント(Category Entry Point、以下CEP)とは、消費者が商品やサービスの購入を考える際に、特定のブランドを思い出す「きっかけ」となる状況や目的のことです。オーストラリアのEhrenberg-Bass研究所のバイロン・シャープ教授やジェニー・ロマニウク教授によって提唱されました。

CEPとは、簡単に言えば「どのような場面で自社ブランドを思い出してもらえるか」を設計する概念です。日常生活の中でニーズが生まれ、「日常モード」から「購買モード」に切り替わる、その最初の瞬間とも言えます。たとえば「喉が渇いた」という状況は清涼飲料カテゴリーへのCEPであり、その瞬間に「コカ・コーラを飲みたい」と想起されれば、そのブランドは「喉の渇き」というCEPと強く結びついている状態です。

CEPは単なる「想起率」ではなく、「どんな場面でブランドが思い出されるか」までを問う点が特徴です。

CEPの重要性 ― ブランド成長戦略のトレンド

従来は、フィリップ・コトラー教授の提唱したSTP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)戦略が主流で、特定ターゲットへの態度変容が成長の鍵とされてきました。しかし近年の実証研究では、ブランド成長には強い好意の醸成よりも「ライトユーザーを含む広い層への認知拡大」が重要と示されており、成長の鍵は、「どのような場面で思い出されるか」(CEP)を増やすことであり、ブランドの差別化に加えて"接点の数=間口"を広げることが重要と注目されています。

他のマーケティングフレームワークとの違い

CEPは、STPやパーセプションマップなどと混同されがちですが、以下のように明確な違いがあります。CEPは"カテゴリーへの入口"であり、他のフレームと競合するのではなく補完するものなのです。

フレームワーク 主な焦点 CEPとの違い・関係性
セグメンテーション 誰が買うか CEPは「どんな時」に注目する
STP 明確な対象層に絞る CEPは「想起される場面の網羅性」が重要なため、絞り込みすぎは逆効果
ペルソナ 典型的なユーザー像 CEPは広範な潜在顧客に「どんな状況で」買って貰うか
ニーズ分析・ジョブ理論 なぜ買うか(機能・目的) CEPは「どのような場面で購買行動が起こるか」を設計する。WhyよりWhen/Whereに近い。
カスタマージャーニー 一連の購買プロセス CEPはその入口にあたる"トリガー"部分に特化
パーセプションマップ 競合との違い、どう見えるか CEPは「思い出してもらえる場面数」を競う

CEP戦略設計のための前提―市場構造と文脈を理解する調査設計

CEPは「カテゴリーへの入口」であるため、CEPを明らかにしただけでは、ブランド成長に繋がりません。調査に先立ってカテゴリーの構造や購買パターンを正しく理解することが不可欠です。また、メンタルアベイラビリティの現状(想起量や質、ターゲット別の到達状況など)を定量診断し、課題や伸びしろを特定することが重要です。

その上で、CEPを発見するには、単なる意見や印象ではなく、"文脈"を引き出す調査設計が必要です。ここで有効なのが、ロマニウク教授が提唱する「W'sフレームワーク」です。

Why なぜその商品を使うのか?
When いつ使うのか?(時間・季節・曜日など)
Where どこで使うか?
While どんな行動の最中か?前後に何をしているか?
With/for Whom 誰と一緒に?誰のために?
How feeling 使う前・使った後にどんな気持ちか?

このような問いを通じて、単なるニーズでは捉えきれない「行動 × 状況 × 感情」の立体的な文脈を把握できます。

CEPを発見する具体的アプローチと成功事例

CEPを的確に捉えるには、生活者の多様な場面を幅広く拾い上げる「広さ」と、それぞれの場面に潜む感情や行動の背景を掘り下げる「深さ」の両方が欠かせません。

そのため、CEP調査の実践では、AIチャットインタビューと定量調査のハイブリッド設計が有効です。
※AIチャットインタビューとは、AIがインタビュアーとしてチャット形式で質問を行う調査手法であり、楽天インサイトなどが導入しています。従来の定性調査の「深さ」を維持しながら、短期間で、多くのユーザーからデータを回収することが可能です。
定量調査については「【2025年最新】定量調査とは?定性調査との違いや効果的な使い分けなどをわかりやすく解説!」をご覧ください。

【調査ステップ】

  1. AIチャットインタビューでCEPを広く収集
     – 多くの人からナラティブデータを深く・効率的に得られる
  2. W's視点で文脈を整理・抽象化
     – 類似文脈を統合し、数を保ちながら、可能性のあるCEPを集約
  3. より広いターゲットに定量調査を行い、各CEPの頻度・関連性、ブランド結びつきをスコア化
     – 「多数派で影響力のあるCEP」「差別化しやすいCEP」など、実効性のあるCEPを選別
  4. 注力CEPの選定と施策設計
     – ブランドの成長余地・競合状況と照らし合わせて、攻める文脈を決定

【CEP発見の事例】

この手法を用い、楽天モバイルの契約に関するCEPを明らかにする調査を行いました。定期的に定量調査・定性調査を行っており、「月額料金のわかりやすさ」「無制限プランの安さ」「楽天ポイントの利便性」などが主な動機であることは分かっていましたが、顧客を更に拡大するために、見逃しているCEPはないかを知りたかったのです。

上記ステップで調査を行うことで、「入院中の長い暇な時間を動画で過ごしたくて、容量を気にせず使える楽天モバイルに切り替えた」「データを使いすぎて速度制限がかかり、時間がもったいないことがあった。容量無制限プランのある楽天モバイルが良いと思った」「家族と話しているときに楽天LINKなら電話料金を気にしなくていいのでわくわくした」のような、細かいCEPを拾い上げることができました。

これらは、ユーザーの携帯ブランドの検討行動をより具体的に理解し、自社の強みを再認識することに役立ちました。今後、CEPの定量化を行い競合と比較することで、広告戦略の変革に活用されることが期待されます。

まとめ

ブランドが選ばれるかどうかは、その前に"思い出されるかどうか"で決まる──これはEhrenberg-Bass研究所が繰り返し示してきたマーケティングの事実です。

今までは「誰に売るか」や「どう選ばれるか」を考えるフレームが主流でしたが、これからは「どんな場面で、ブランドが想起されるか」という"入口設計"こそが勝負を分けます。

CEP戦略は、ブランドを思い出してもらう場面を増やす設計図です。
このフレームを自社のマーケティングに取り入れることで、これまで見過ごしていた無数の購買機会を、確実に取り込める可能性が広がります。

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