第11回

自立思考型リサーチャーへの挑戦
-会社のお荷物にならないために-

自立思考型リサーチャーへの挑戦 -会社のお荷物にならないために-執筆 : 田中 庸介

「(図1)イチゴの数を数えてください。」
まず1つ1つ数を数えるという確実な方法が考えられます。合計は36個ですがこれが100個以上となりますとベストな方法とはいえません。

いちごの数はいくつか?

次に下図2のように4つのいちごを1ユニットとして「4つ×9ユニット=36個」という数え方があります。

いちごの数はいくつか?

先ほどと少し異なり、下図3のように全体を1つの正方形として捉えて空白部分のいちごの数を全体から引き算するという考え方もできます。

いちごの数はいくつか?

さらに、図4のように分解と再構成を経て、変化(変化とは分解と再構成です)させて考えるということもできます。

いちごの数はいくつか?

これは、公立小学校(低学年)の算数の授業参観の内容だそうです。どのように数えるかを一人ひとりが考え、考え付いたその数え方をみんなの前で説明する。先生は答えは言わず1コマ・45分間考える/説明することに重きを置くという自立思考のベースを育てる学習スタイルです。

先日、この話を大学の友人から聞いたのですが詰め込み式で育った私は衝撃を受けました。と同時に『いまのリサーチ業界でこのような考える力を強化するには、どうしていけばよいのか』という思いに駆られました。

現在のJMRA正会員社数は117社(2018年7月1日現在)です。協会に加盟にしていないリサーチ会社を含めるともう少し多いと思われますが、従業員数100名以下の中小企業者に該当するリサーチ会社や営業・企画力・分析レポーティング力に強みがある個人事業主の方も多い業界です。中小企業での採用難が深刻化していますが、当業界も労働者数減少による採用難及び人材育成難が経営上の課題になっています。古参社員の高齢化が進む中で、営業から企画提案・推進、調査票の作成から多変量解析・分析レポーティング・報告など、BtoBやBtoC、定量/定性調査を含めひとつの案件に対して、手段の制限を設けず、一元的に遂行するリサーチャーの母数は減っています。特に定性リサーチャー(モデレーター)は定量を主とするリサーチャーよりもその数が減っているように思います。確実にいえることは定性リサーチャーが貴重な存在になっていながら、その育成には相当数の時間がかかるということです。世の中の多くのリサーチャーがエイジングしている現在、10年後を見据えた自立思考の若手リサーチャーの育成が急務となっているのではないでしょうか。
※これはリサーチ会社に限ったことではなく、メーカーなどのリサーチ部門にも該当します

インターネット調査という手法は2000年頃を境(黎明期から転換期へ)に拡大してきました。いわゆるインターネットリサーチ会社は機能分化された縦割機能組織が主であり、職場内訓練(OJT)はその機能組織内で実施されます。配属される部署によりますが実査担当→営業担当→リサーチャーへと新卒5,6年目ではじめて調査票を作るという機会がやってくることも少なくありません。これは段階的な経験学習であり、手堅いですが時間もそれなりにかかるというものです。そして機能別組織の良し悪しのひとつですが、効率化に追い回されるために、その機能別担当者が同じ業界・同じテーマに精通する専門性の積み上がりを実感にしにくいということが挙げられます。つまり、その業界のリサーチの専門家が生まれにくいということにつながりやすいのです。

私事で恐縮です。SASのアウトプットの多くが日本語に切り替わった1990年後半に大学でマーケティングをかじり、小規模企業に括られるリサーチを手段としたお客さまの課題解決を行う会社に入りました(クロス集計表の±5.0ptを製図用の定規で丸で囲み強調するという作業が一部残っていた時代です)。

“営業はトップの仕事”という認識のもと、上司が受けた相談案件を部下がゼロからの経験で一気通貫で消化するという会社でした。スタッフ育成は職場内訓練(OJT)で、上司はクライアントとディスカッションするのが仕事であって、私の理解が追いつかない部分をお客さまがいる現場で手取り足取り説明することはありません。それでも新人のころは、会社に帰り上司が咀嚼してくれるのですが60%も理解できず、それでもレポート作成の締め切りは迫ってきます。データを見る前に自分なりの仮説を持つことが出来ずデータに振り回されるだけの中で、FactをFactとして伝えることも十分大切な業務ではあったのですが、それ以上に調査結果のまとめから考察に昇華させることが出来ませんでした。結果(仮説)から逆算してデータを見ていなので、Factの再整理という域を出ないのです。

前職の小規模企業では自分よりも能力のある若手(どんな能力でもいいのですが)が育たないと会社は縮小していきます。どこの会社でも同じだと思いますが、自分と同じやり方をただ踏襲するコピー人間だけでは会社は変化に対応できませんので、おのずと自分で考える力を養いアウトプットすることが求められます。

上司・先輩の残業が終わってから机の引き出しをのぞき、課題の捉え方やライティングの仕方をトレースしながら自分で書いてみる。こんな考え方や表現があるのかと徐々に覚えていきます。給与の1割を書籍代にあて、クライアントの業界とそのテーマで先に行っている実務家の本やマーケティング学者のフレームワークの両面でいま与えられている課題を捉え整理する、こういった行いはビジネスパーソンであれば誰でもやっていることですが、若い20代のうちに習慣化しておくべきことでしょう。そうすれば、門外漢の課題を頂戴したときも『情報劣位な状況で企画・分析をすべきではない。まずは最低限の情報を得て、そこから思考労働をはじめよう』 となるはずです。企画とは、事前の情報収集と課題の整理、そこから分かる課題認識と仮説の抽出が肝であり、ここがしっかりしていれば、おのずとライティングに充てる作業時間が減っていきます。

フレームワークについても、PESTや3C、ファイブフォース、そして4Pに代表される主にマーケティング戦略次元のものとAISCEASのような消費者行動論のような購買検討プロセスに焦点をあてたものなど多種多様あり、それぞれの粒度は異なります。消費者行動論のフレームワークが頭に入っていないと購買行動(BtoC)に関する調査項目を網羅的に作成するのは難しいでしょう。例えば、調査項目の流れは消費者行動論で、購買理由などの選択肢を考える際はメーカー起点の4Pの観点をベースに構築し、さらに抜け漏れがないか、今回の課題に対してどのPを厚めに選択肢を作っておくべきかなどの判断をしていく必要があると考えます。

しかしながら、フレームワークは一義的なものではないことに留意が必要です。4PのPrice(価格)は一見ひとつのように見えますが、特にBtoB場合は“商品政策上の価格”と“販促上の価格(どの程度安く売るかどうかの価格)”、“営業の取引条件としての価格”の3つがあり 、決して“価格”が1つだと思ってはいけません。そして4P自体にも、 “営業”というfunctionが含まれておらず、このように教科書に載っているようなフレームワークでさえも、万能なものではないという認識も大切です。

そもそも、フレームワークはどのように考えるかを教えてくれるツールであり、その時の状況に対する予想・見通しを提供してくれます(先ほどの図3の考え方はフレームワークで全体像を見通して考えることに似ています)。フレームワークの学術的なこまごましたことに捉われず、実務的に焦点を絞ることでも非常に実用的です。なによりこれらは書籍を買えば、知ることができるのです。しかしこれは知識学習です。重要なことは実践でどう使うかという経験学習のほうにあります。コルブの経験学習モデル(“具体的経験”→“内省的観察”→“抽象的概念化”→“能動的実験”)では、自分の能力を少し超える経験が成長にとって最も適切な経験とされています。経験を通じて自身の知見や理論をつくりだす、理論とまでいかないまでも個人単位の方法論や持論、成功パターンの感覚を持ち、“能動的実験”を繰り返す。その経験が次ぎの“具体的経験”になり、経験自体がその次ぎの成長の糧になっていきます。

そして、ここで最も重要なポイントは、“自分の能力を少し超える経験”を得るべく自発的にチャレンジするかどうかということです。ただ闇雲に挑戦すれば良いといことではありません。サッポロビールのテレビCMで庵野秀明氏が「手が届かないことを、無理してやるのはぼくはあんまり挑戦とは思わない」と言っておられ、これはひとつの捉え方ですが、なるほど、と思います。組織は個人が活躍する器になるべきという時代に、スタッフが自発的にチャレンジしようと思える風土をどうつくっていくのか。他方、個人は自主的に物事を深く考える力を養い、闇雲なチャレンジを明確なwillを持ったチャレンジにしてゆくことが重要だと思います。

その個人の思考力の分類としては下図が参考になります。“判断力”は私が書き加えたものですが、上司がいなくても、クライアントからの情報提供が少ない場合でも正しく判断ができる力が最も根源的で重要ではないかと思います。

思考力の分類

そして、この判断力の中で最も面積を占めているのが“知的好奇心(原動力)”です。

  • コンビニエンスストアの扉はなぜ自動ドアと手動ドアがあるのか
  • どうしてアイス用の冷蔵庫でフタがあるものとないものがあるのか
  • 牛乳パックはどうしてレジ内のフライヤーから遠い場所に置かれていることが多いのか
  • A系列店よりもB系列店のほうが蛍光灯の数が少ないのか
  • 蛍光灯ではなくなぜLEDに切り替えて電気代を安く抑えないのか

このように、当たり前のように生活導線に入ってくるコンビニエンスストア(全国で5万店舗水準で、ユニバーサルサービスの郵便局数は2.4万店です)の場合でも複数の疑問を持つことができます。

この“疑問”や“矛盾”を感じ持つことから「きっとああだろう、こうだろう」という「私見(自分一人の意見・見解)」を持つことが第一歩となります。なぜなら、その疑問・私見がなければ調べにいくという行為自体が主体的に生まれてこないからです。それがあってはじめて仮説思考の”So What?とWhy?“を繰り返すことが自然と出てきます。

自立思考のリサーチャーとなるには、この「自分の中での引っ掛かりを持つこと・Q(Question)を出す力」が不可欠です。そして、これは“プロセス”です。プロセスは個人及び組織の成長にとって極めて重要であり、強固なプロセスを内部に所有していることが強みとなります。上司が毎回具体的な指示を出さなくても、スタッフが共通のゴールに向かって、正しく判断がおこなえるようになるからです。ただ、ベテラン営業マンがマネのできない部分・プロセスを持っており、標準化できないからそこ“ベテランだ”という側面もあります。そのプロセスが独自すぎて、全体・チーム等の戦略方針になじまないということがあり、事によっては対立する要素を含む場合があるということも強調しておきます。

では、このプロセスをどうやって育てるのか。まずは率先垂範だと思います。ある会社では“空気感染”と言っておられたり、これはあまりに有名ですが山本五十六の「やってみせ、言って聞かせてさせてみて、誉めてやらねば人は動かず」でして、この続きは「話し合い耳を傾け承認し、任せてやらねば、人は育たず」「やっている姿を感謝で見守って、信頼せねば人は実らず」です。

若手は、自身の選好や能力、そしてこれまでの経験で得た知識などを用いて何ができるのかを模索する。と同時に、組織は各個人のこれらの要素を認識し、どの業界のどのようなマーケティングテーマ(製品開発、ブランド、宣伝、販促、小売・流通、物流、営業、新規事業開発、用途開発など)であれば、興味を持てるか・チャレンジできるか・自主的に専門性を高められるかを考え、その機会を与え、マネジメントすることです。過保護のように聞こえるかもしれませんが、これは適性ある経験学習をさせ、人材の自立的な成長を促すということです。「リーダーを育てたければ、リーダーをやらせるのがよい。経営者を育てたければ、経営者をやらせるのがよい。この大原則を外してしまって、研修だけやっていても人材は育たない」(Marketing Journal 2018 SPRING 148,社内スタートアップ創出への組織対応-サイバーエージェントが実践からつかんだ知見-,p37)というように“やらせる”のです。個人はこの機会を自己成長の機会として捉え・経験し・学び(たとえ失敗しても・できなくても率先垂範する上司がいれば、その上司が責任をとります。つまりは巻き取ります。そこから学ぶということも含みます)、最後に物にする。その経験値を元に未来に対処していくしかありません。そしてそのことに気付いた人材しか自立できないのだと思います。

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