海外調査における『デスクリサーチ』の活用方法執筆 : 松田 茂

必要とされる「肌感覚」を補うために

今回は、コラム第6回「海外調査に、安心を添える“経験値、感覚値”」の中でもふれた「基礎調査」「事前調査」の手法としても用いる『デスクリサーチ』について、海外調査の視点から活用方法や情報探索時の留意点、注意点を整理してみます。

一言で「海外」と言っても対象となる国の数は国連加盟国だけでも193ヵ国※1、日本が国として承認しているのは195ヵ国※2もあります。参考までに弊社がオンラインで実施できる調査対象国は97ヵ国となり、国内調査では共通認識となる生活者の“肌感覚”も、海外調査では「ステレオタイプなイメージしか持っていない国」や「雰囲気が描ける程度の国」が対象となることもあり、現地の“肌感覚”が一朝一夕に得られるものではないことは容易にお察しいただけると思います。

リサーチャーが定量、定性問わず海外調査を担当する時、この“肌感覚”を補うアプローチのひとつとして「デスクリサーチ」での情報収集、整理が挙げられ、公開された既存のデータや調査結果、時事問題や生活者のコメントを通して調査対象国の理解を深めることに加え、時として調査内容の確定を早めたり、精度を高めてくれたりもします。

※1:出所 国際連合広報センター/※2:2015年 外務省発表数

「検索力」も重要なリサーチャースキル

スマートフォンを持ち歩くこのご時世、「検索」する機会も多いと思いますが、「デスクリサーチ」も簡単に言えば「情報検索」の範疇に入ります。海外調査の場合も、調査対象となる国についてまずは「現地を知り、理解を深める」ことが目的となります。
なので、「1.知りたい目的(国勢、業界、商品分野など)に沿い、検索を重ねる」⇒「2.焦点を捉えた検索キーワードを精査し、さらに多面的に探る」⇒「3.集めた情報の中から有効なデータを選び、市場概要、変化要因、トレンドを探る」ような工程で進めていきます。

「焦点を捉えた検索キーワードを精査しながら多面的に探る=検索力」となるので、ここでリサーチャーの専門性やセンス、構造的な分析力が求められます。
キーワードの組合せで検索対象も変わりますし、検索サイトで表示される検索結果もSEO(上位表示)対策が成されているので“上から順に確認する”のも決して効率的な手段ではなかったりします。

現地で公開されている統計データから国や地域単位で生活背景の変化を捉えたり、ニュースや新商品情報を時系列に眺めながら消費トレンドを推測します。
現地で暮らす日本人のブログやSNSからは日常生活の中で感じる日本の習慣との差や何気ない生活の声から気づきが得られることもあります。

目的を適える欲しい情報に近づくため、日本語、英語、現地語の使い分けは基より、専門用語、一般用語を使い分けて検索したり、時には画像検索も活用するなど、創意工夫を凝らし効率的に進められる「検索力」を培っていきます。

事例:統計データにみる「米国におけるライドシェアの浸透」

以下のグラフ(図1)と表(図2)は、2018年8月にアメリカ合衆国国勢調査局(US Census Bureau)のサイト内「America Counts: Stories」に掲載されたKristin Sandusky(国勢調査局 経済学者)が書いた「Gig Economyに関する被雇用者の統計データ」のコラムより引用したものです。
https://www.census.gov/library/stories/2018/08/gig-economy.html

2013年以前、15年間は年5%程度の安定した増加が見られた「タクシードライバー(自営)の数」は、2013年を境に急激な増加傾向を見せ、2016年には700,000人を超え、3年間で3倍にも増えたこととなります。
この動きの背景には、2012年6月にLyft、7月からUberが展開した「ライドシェア事業」の影響があり、自営(パートタイム)として収入を得る人が増えたことを意味しています。現状、日本では「国からの許可を受けたタクシー業」しか認められていませんが、「ライドシェア事業」の浸透は米国のみならず、東南アジアや中国、インド、ロシアでも進み、タクシードライバー数の伸びが見られます。

コラムの中では、「女性ドライバーの増加」や「平均収入額の低下(パートタイム比率の伸び)」などの周辺データからの分析もなされており、米国における移動交通インフラの変化が客観的にまとめられています。現地で生活する人から「LyftやUberって便利ですよね」という声もあまり聞かれなくなるほど、急速に生活の中に浸透した「ライドシェア」に関わる人の動きがデータからも把握できます。
出張時に利用したロサンゼルス国際空港にも1年程前から「Ride Service」の案内表示を見たことを思い出しながら、データの裏付けに納得しました。

Number of Nonemployers


Nonemployers in industry

「情報の精査」デスクリサーチの留意点、注意点

外出先で「美味しいお店」を検索する際にはさほど問題にはなりませんが、「デスクリサーチに用いるデータ検索」では情報の精査が必要となります。
前述の米国国勢調査局のような専門組織が管理する統計データが公開されているのは一部の先進国に限られ、公開されている情報、データは、玉石混淆な状態で飛び込んでくるので、その中から正確な情報かどうかの見極めが必要となります。このプロセスが最も重要であり、手間を要するポイントになってきます。

まず直面することは、比較的新しいデータはあまり出回っていないということ。旬なトピック以外は、それほど都合よく情報が揃わないことがほとんどです。
魅力的なタイトルが目に映っても、情報の発信日時やデータの対象となる年月を確認すると3~5年以上前のデータだったりするので、安易にデータを鵜呑みにせず、データの信頼性を確認することも求められます。正直、正確な情報かどうかの判断や、数値やグラフの見極めはとても難しく、検証プロセスは複数のリサーチャーで並行して行ったりもしますので、精査に向けた留意点、注意点を挙げておきます。

  • 留意点として
    1. 情報の掲載日、データの発行年月の確認。「掲載日」が最近であっても掲載されているデータが「最新」とは限りません。
      使いたいデータを見つけた際は、出典などを再度探り、信頼できる発行元、発信元に辿りつけるかどうかも併せて確認する。
    2. そのデータは、どのような条件で、誰が、何の目的で行った調査結果なのかを確認する。営利目的のデータも世の中には存在します。
    3. SNSやブログなどの情報は、「一人の現地生活者」のコメントに頼らず、同じ意見の出現傾向や反対意見が無いかも慎重に確認する。
  • 注意点として
    1. 著作権についての取扱いの注意書きが無いか、あった場合はその内容をしっかり確認する。
    2. 二次利用の許諾がされているかなど確認する。
    3. 出典を正確に留め、資料に内容の一部や図表などを引用する際は必ず記載する。

デスクリサーチで得られた情報の「活用方法」

デスクリサーチは「まずは知る(基礎情報収集)」「実施前に知る(プレ調査)」「生活環境を知る」「兆しを知る」「深く知る」など様々な目的で行われますが、活用例を整理してみます。

  • 活用方法
    1. 「まずは知る/実施前に知る」
      調査企画、設計にあたり「調査対象として、どんな人(有識者/生活者、年代、地域)の意見を聞くと良いのか」など、裏付けとしての活用し、調査の精度を高める。
    2. 「まずは知る/生活環境を知る」
      現地生活者からの意見や情報から、生活習慣や消費行動の特徴を探り、さらに精度を高める「現地検証」に繋がるガイドラインとして活用する。
    3. 「兆しを知る/深く知る」
      国勢(人口推移や経済状況)を背景とした、世代間の意識差や消費志向の変化、影響力のあった業界トピックを時系列に整理し、近い将来に計画されている大きな動き(技術革新やインフラ整備)を踏まえたタイムラインから仮説立案に活用する。

海外調査に携わる上で、デスクリサーチは「基礎体力」を高める有効な方法となるので、「筋トレ」と同じように常日頃の積み重ねが地味に効いてきます。
「時間をかけて探す」粘り強さや、「短期間で整理する」際の瞬発力など、いざという時に備えてアンテナを高く張ることが一番の近道なのかもしれません。

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