第23回

データドリブンマーケティングの前に、
今更ながらのマーケティング論

データドリブンマーケティングの前に、今更ながらのマーケティング論執筆 : 伴 果純

楽天インサイトは、2018年のリブランディングより、データドリブンマーケティングの推進を強化しています。楽天が保有する様々なビッグデータを、クライアントの課題に合わせて分析し課題解決の示唆を提供する、そのために我々は日々精進しています。

当然“楽天”ですから、蓄積されたビッグデータはオンライン領域の行動データが多く、所謂“シングルIDのデジタルデータ”そして“デジタルマーケティング”の世界を得意としています。が、デジタルマーケティングの世界をまい進していると、結果数値、つまりCVR(コンバージョンレート)やCPA(コストパーアクイジション)などのKPIばかりを追い回し、時々『本来マーケティングがなすべきこと』との違いに戸惑い、道を見失うことが多々あります。

今回は自戒の念も込めて、“本来マーケティングがなすべきこと”について、この場を借りて、根源的なところから見直したいと思います。

マーケティングの起源は?

所説ありますが(チコちゃん風に)、私はP.ドラッガーが提唱している日本起源説を支持しています。それは、1673年(延宝元年)創業の越後屋(現在の三越)が始めた様々な商売方法が、“マーケティング”の原点だという考えです。一部例を挙げます。

  1. お客様が欲しいと思う製品を仕入れる(売りたい物を仕入れるのではない)=元祖、顧客志向
  2. お客様が欲しいと思う製品を企画設計し製造元を自ら開発する=マーケティングは広告宣伝のみじゃない!
  3. 「異議を唱えないで返金します」を原則とする=元祖クーリングオフ、消費者保護
  4. 一部の製品や製法に絞らず、広く製品を取り揃えて、お客様の様々な要望に応える=ニーズの多様性への対応(この時代に!!)
  5. そして、越後屋の屋号を視覚化し(家紋風)統一した=なんと!ブランドマネジメント

越後屋と言えば、「現銀(げんきん)掛け値なし」を初めて実施した革新的な呉服屋として有名ですが、顧客のいろいろな要望に答えることを筋としていました。まさに、マーケティングの神髄です。さらに、この越後屋をはじめとした有力呉服店はその後百貨店となり(越後屋→三越、白木屋→阪急、大文字屋→大丸、高島屋→高島屋、十合呉服店→そごう、いとう呉服店→松坂屋)、有力顧客には “外商”によって手厚い顧客管理、顧客関係の構築により太客化するという手法をとりました。こちらはCRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)の原点だと私は考えています。

改めて、マーケティングとは?

マーケティングとは広告宣伝だとか、マーケティング部=営業部の一部、だとかおっしゃる方や組織をまだ見かけますが、それは大きな間違いです。狭義の意味とか、広義の意味とか、使い分けだとか、様々反論はあるかもしれませんが、本質論に狭義も広義もありません。

マーケティングとは「製品開発~生産~広告宣伝、PR~販売~顧客獲得~顧客維持~阻止顧客価値の拡大~そしてブランド価値の拡大」これらすべてを領域とし、検討すべきアプローチ手法、プロセスなのです。つまり、マーケターは、広告宣伝だけをやっていればよいわけでは無く、また製品開発だけをしていれば良いわけでもない。当然、売るだけでもダメです。マーケターは、すべてのフェーズ、上流から下流までを勉強し、理解し、対応し、実行をリードせねばならない立場であると考えます。

なぜ、そうなのか?多くの諸先輩方がマーケティングを定義していますが、代表的な定義をいくつかご紹介してゆきましょう。

まずは、マーケティングの神様と呼ばれるP・コトラー:
「マーケティングとは、製品と価値を生み出して他者と交換することによって、個人や団体が必要なものや欲しいものを手に入れるために利用する社会上・経営上のプロセス

次に、経営学の父、P・ドラッカー:
「マーケティングの目的は、セリングを不要にすることである。顧客について充分に理解し、顧客にあった製品やサービスが自然に売れるようになることである。マーケティングは製品なりサービスを買おうとする顧客を創造するものであるべき。あとは顧客がいつでも製品やサービスを手にいれられるようにしておきさえすればいい。」

最後に、日本マーケティング協会(JMA):
「マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である。(1990年)」

ちなみに、アメリカマーケティング協会(AMA)は:
「Marketing is the activity, set of institutions, and processes for creating, communicating, delivering, and exchanging offerings that have value for customers, clients, partners, and society at large. (2013年6月改訂)」

これらの定義(特に下線部)に共通しているのは、マーケティング=「顧客志向(Customer-Oriented)」を具現化するプロセス、ということです。顧客の必要なもの、欲しいもの(ニーズ)とは何か?あくまでも顧客基点で考え企業側の都合で進めてはならない、顧客に合ったサービスや製品を提供するためには顧客との相互理解が必要、これらの考えはB2CであろうとB2Bであろうと違いは無く、しっかりと肝に銘じなくてはなりません。

では、究極のマーケティングとは

それは、やはりP・ドラッガー言うところの「セリングを不要にすること」でしょう。そのためには、どうすればよいのか?改めて、上記の代表的な定義の裏に隠れている意味も含めて、整理してみたいと思います。

  1. マーケティングとは「顧客志向(Customer-Oriented)」の具現化であり、商品やサービスの送り手と受け手の間に交換をもたらすプロセス
  2. マーケティング無くしてセリングはない。セリングは「今日の糧」を稼ぐためのアクションであり、マーケティングとは「明日の糧」を得るために「売れる仕組み」「成長の仕組み」を“プロセス関与者全員で”つくること
  3. そして、売るものは「製品・サービス」ではなく「価値=顧客満足」
  4. マーケティングは、商品の戦いではなく知覚(パーセプション)の戦い
  5. つまり、マーケティングとはブランディング!
  6. ブランドを築くのはマーケターだけではない。すべてのプロセス関与者が「自分はブランド体現者である」ことを理解し、実行せねばならない
  7. マーケティングに正解はない、ひたすらPDCAを回し、改善を続けることが成功への近道

『本来マーケティングがなすべきこと』を踏まえてのデータドリブンマーケティング

データドリブンマーケティングが扱うデータは多種多様ですが、その中でも生活者が残した様々な行動ログを分析し、戦略を構築するところに一番の醍醐味があると考えます。これを“生活者基点”と言っても間違いではないでしょう。しかしながら、分析時点でデータは既に過去のものであり、我々は生活者の“過去”を分析しているに過ぎないということも、きちんと理解する必要があります。他方、生活者の行動、思考は、過去の積み重ねの上に立脚しているという事実もあります。従って、過去を否定せず、きちんと今までの経緯を理解し将来を見据えて、マーケティング戦略を構築してゆくことが非常に重要です。

過去を見ながら将来を語る』、この一見相反することをデータドリブンマーケティングは実現せねばなりませんし、データドリブンマーケティングだからこそ実現できると私は考えます。

人間は非常に曖昧で、忘れやすい生き物です。我々はそのような生き物をアンケートやインタビューによって理解しようと今まで努力してきました。しかし、忘れてしまったことは答えてくれませんし、気分次第で回答が変わることも、残念ながら発生します。その点、行動ログデータは事実の積み重ねですので、事実理解という点で勝るものはないでしょう(前提として、前回小職が記載したデータクリーニングが行われていることが大事ですが・・・)。そしてこの事実理解の積み重ねが、将来予測や最適化モデルの可能性を導き出してくれます。

しかしながら、行動ログで分かるのは、いつ、どこで、何が売れたか?何が利用されたか?ということであり、生活者がそこにどのような価値を感じていたのか?どのような知覚認識をしていたのか?満足しているのか否か?そもそもお客様はどのような考え方をする方なのか?などについて、ログの世界は語ってくれません。言うまでも無く、顧客志向であるためには、お客様を「〇〇購入者/○○利用者」と理解するだけでは不十分です。「そこでお客様が感じられている価値はなんなのか?」、つまり行動ログでは分からない世界の理解が非常に重要であり、そのためにはお客様への直接確認(アンケート・インタビュー含む)と更なるコミュニケーションによるPDCAの推進が必須となります。まさにこれが『売れる/成長の仕組みづくり』です。

最後に

昨今の技術革新により、ビジネスの世界はログデータそしてログデータを基にした結果指標至上主義的な雰囲気がありますが、私は敢えてマーケターの原点に立ち戻り、そこに異を唱えたいと思います。大事にすべきは『本来マーケティングがなすべきこと』であり、それは顧客を理解することからスタートすべきです。

そして『過去を見ながら将来を語る』には、データドリブンマーケティングだけではなく、はたまた伝統的なアンケート/インタビューだけでもなく、両者の強みを活かした使い分けが大事であり、“マーケター”を目指す方々には、ぜひこの両方について学び続け、最新の情報を入手、理解し、実務に活かしてほしいと願うばかりです。

出所:
Philip Kotler :Philip Kotler, Marketing Management: Analysis, Planning, and Control, Prentice-Hall, 1967. (Subsequent editions 1971, 1976, 1980, 1984, 1988, 1991, 1994, 1997, 2000, 2003, 2006, 2009, 2012, 2015). Kevin Lane Keller Joined as co-author in 2006.
フィリップ・コトラー:コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 第12版丸善出版 (2014/4/19)
Peter Ferdinand Drucker: 1973: Management: Tasks, Responsibilities, Practices' (New York: Harper & Row)
ピーター・ドラッカー:『マネジメント務め・責任・実践』(有賀裕子訳、日経BPクラシックス、2008年)1973年著作
日本マーケティング協会:https://www.jma2-jp.org/jma/aboutjma/jmaorganization
アメリカマーケティング協会:https://www.ama.org/the-definition-of-marketing/
三井広報委員会「越後屋誕生と高利の新商法」:https://www.mitsuipr.com/history/edo/02/

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