海外調査市場におけるAI技術の活用動向と展望執筆 : 一ノ瀬 裕幸

海外調査に関わっていると、国際的な技術動向やトレンドがとても気になります。
8月から9月にかけて、2つの国際会議に参加する機会を得ましたので、そこで見聞きしたこと、感じたことをご報告したいと思います。

APRC※1) 2019(シドニー)とESOMAR※2) 大会 2019(エジンバラ)より

*1)
APRC (Asia Pacific Research Committee) は、アジア太平洋地域の市場調査協会の連合組織で、主に先進事例や技術等の情報交流を行っています。現在加盟しているのは、日本、中国、韓国、豪州、タイ、ニュージーランド、マレーシア、シンガポール、台湾、モンゴルの10ヵ国・地域の11組織です。

*2)
ESOMARは、国際的に市場・世論・社会調査業界を代表する協会で、クライアント側に所属するリサーチャーを含め、個人会員が約6,000名以上、法人会員の所属社員を含めて約40,000人以上を組織しています。各種行動規範やガイドランの制定をはじめ、EUのGDPR(一般データ保護規則)対応などの国際ロビー活動を担っています。

データの規模や加工技術よりも、改めて「データの読み方」が重要に

まず、8月に行われたAPRC(豪州協会の年次総会との合同開催)からの話題です。
昨年までの発表や議論では、大規模なビッグデータの処理や加工技術への挑戦が大きな話題をさらっている感がありました。しかし、今年は「風向きが変わった」感があり、「ビッグデータやデータサイエンス系技術の発展でいろいろなアウトプットが得られるようになったのだが、さて、このデータはどのように読めばよいのか?」が、今さらながら問われるようになってきた、とのことでした。
このインサイトコラムでしばしば話題にされている論点と、相通じるものがあると思います。

そのような流れに連動して、「各国で定性調査が活況を呈し、ストーリーテリングの需要が復権している」との報告もありました。技術の進歩によって「今までは十分にできなかったことができるようになった」ことの熱が落ち着いてきて、改めて「このデータをどう読んで、どんなアクションにつなげればよいのか?」に焦点が移りつつあるのではないかと思われます。
オンライン購買の成長が著しい中国からは、「ECデータの分析・加工だけではなく、オフライン店舗での観察や消費者行動の分析が改めて見直されている」との報告があり、注目を集めていました。

いずれも、データの効果的活用こそが重要であり、市場調査会社やリサーチャーに対して、そのための分析・提言に関する期待が高まっていると解釈できると思います。

圧倒的な勢いで進むAI活用の取り組み:5つの代表的トレンド

APRCでなされた報告の中では、英語圏を中心としてAI技術を活用したソリューションが次々に登場していることに目を引かれました。今までに少なくとも累計で900本以上のアプリやクラウドサービスが市場に出回り、かつ毎週のように新技術をひっさげたスタートアップ企業が参入してきているとのことです。

ここでは、英国のコンサルタントであるMike Stevens氏(insightplatforms.com)のプレゼン内容を翻訳・整理・引用する形で、技術面での5つの代表的なトレンドについてご紹介したいと思います。(なお、以下の要約ではプライバシー(個人情報)保護や本人同意取得の課題はいったん横に置いて、技術的な側面からの興味関心にのみ焦点を当てています。文責はすべて筆者にあります)。

(1)インプットの拡張と多様化
まず、伝統的なアンケート調査・観察調査等による一次データ収集や、定性調査を通じてリサーチャーが分析してきた枠組みを大幅に拡張し、かつ省力化・高速化することを可能にするAI技術が進化しています。

  1. 日常会話・音声認識:
    アマゾンのAlexaに代表される会話型インターフェイスや、チャットボットを活用したデータ収集・蓄積を可能にする技術です。相手が子供でも、自然で簡易なデータ収集が実現できていて、英語の認識精度は非常に高い(100%に近い)レベルだそうです。
  2. 感情判断・ニューロ:
    例えばブランド力の評価において、「好き~嫌い」の振れ幅を含む感情測定は非常に重要な要素ですが、アンケート方式で正確に取得するにはおのずと限界がありました。しかし、今では調査対象者の発言内容、声の抑揚、ボディ・ランゲージ、可能な場合には皮膚の状態(汗、脈拍など)を計測することで、相当の精度でポジ・ネガ(とその程度)を判定できるとされています。
  3. 動画・画像解析:
    収集された写真や動画の内容・コンテンツの自動解析、アイ・トラッキング技術を活用した注目点の解析などが簡素化・高速化されつつあります。

(2)インサイトの探索を支援
次は、今までであれば経験を積んだリサーチャーが収集されたデータを読み込んで、ある意味での創造性を発揮してインサイトを発掘していた領域です。AIがデータを自動的に整理し、意味のある推論の候補を複数抽出してくれることなどを通じて、生産性の向上につながることが期待されます。

  1. 自然言語理解・生成処理:
    直接収集された消費者の声、ソーシャルリスニングを通じて蓄積された表現などから、自動的に文脈を推定し、報告書(案)まで書いてくれるようです。
  2. トレンド計測・カルチャー動向分析:
    調査を通じて収集したデータだけでなく、統計などのオープンソースデータや未来予測データを取り入れて、トレンドの方向性や文化的動向の分析までをAIが支援する、というものです。(どの程度の精度が期待できるものかは、具体的なアウトプット例を見ていないので何とも言えません)。

いかがでしょうか。モノによって確度・信頼度(・期待度)の高低はあろうかと思いますが、「技術的にはもうそこまで来ているのか?」、「使えそうかも?」と感じられた方が少なくないのではないでしょうか。もちろん、だからといって従来のアンケート調査やグループインタビューなどの手法が意義を失うわけではありませんが、これらのソリューションが期待通りに機能してくれれば、かなりの生産性向上に寄与してくれそうな気がしませんか?

ESOMAR大会が推奨する「変身」の方向性

続いて、9月のESOMAR大会の統一テーマは“TRANSFORMATION”でした。具体的には、「AI技術を活用した新業態への変身」ということになるかと思います。
3日間のプログラム内で取り上げられた演題の大半がAIをはじめとする新技術とそれらへの対応に関するもので、60本以上の発表が走る中、“Research”という言葉がついたものがほとんど見当たらなかったことが印象的でした。プログラム委員会の意思が強く反映されていたことはもちろんですが、世界中で市場環境変化に対応した「変身」への模索が続けられていることを象徴していたと思います。

(全部を聞けたわけではありませんが、)以下のようなテーマの発表が各所で目につきました。

  • ソーシャルリスニング(SNS等)、音声認識、画像解析(Instagram等)、感情解析にAI技術を活用したデータ収集・解析手法の革新
  • ストーリーテリング、シナリオクリエーションといった、解析結果を元にどう提案を組み立てるかにAI技術を活用する試み

APRCでの話題と、ほぼ共通していたかと思います。あたかも、「これらの新技術に取り組んでいかないと、未来はないよ」と言われ続けているかのようでした。それでもなお、「最後に提案を素晴らしいものにするには、人間のインテリジェンスが必要になる」ことも訴えられていましたが。

もう1つの特徴的なキーワードは、「世界同時並行」でした。数は多くなかったものの、一般に新興国とみなされている国からの発表内容も欧米先進国と何ら遜色なく、「横一線」での競争が繰り広げられていることを感じさせられました。

では、これからどうすればよいのか?

引き続き情報収集と見きわめが必要

ただし、やはりそう簡単にものごとが進むわけではありません。国際的な調査市場の売上の大部分は、依然として伝統的な定量・定性調査によって構成されています。
上記にご紹介したAPRC及びESOMAR大会の事例発表はどれも大変興味深いもので、一定の成果も現れつつあるものの、やはりまだ試行錯誤の真っただ中で、当業界の将来を確実なものにするだけの決定打になり得るかは、何とも言えない状況と思われました。また、現状ではまだまだコストが高く、パイロット的な取り組みとして研究段階の域を出ないものも多かったと思います。
率直なところ、これから何が本流になるのか、数多く登場してきているソリューションのうち、何が生き残るのか、まだ全くわかりません。引き続き地道な情報収集と、個々の見きわめが重要になると考えられます。

日本語の壁と日本市場での対応

それから、先述したソリューションはいずれも英語圏から発信されているもので、日本ではほとんど紹介されていないことが残念な点として挙げられます。もちろん私の勉強不足もあるのですが、初めて見聞きするものが多く、言葉の壁を感じざるを得ませんでした。

世界の調査市場のうち、金額ベースで英語圏の国々が占めるシェアは約6割、それに対して日本のシェアはわずか4%強にすぎませんので、やむを得ない面はあると思います。とはいえ、変化が世界同時並行で進む中で、わが国が一歩出遅れている感は否めません。

楽天インサイトは、日本の市場調査業界の中でもいち早くデータ活用の取り組みを進めて来ていると自負していますが、さらに情報発信を強化していく必要性を痛感しているところです。先述のように注目を集めるAI技術ですが、その読解のためには調査データの分析や多変量解析等で培われた基礎的な知見が必要で、リサーチャーの多くはそれらの最も近いところにいるはずだからです。新技術の取り込みはもちろんのこと、そこからアウトプットされる結果の「読み方」でこそ勝負していきたいものです。
今後は私自身もより積極的な海外情報収集に努め、機会をとらえて先端事例の発信に取り組んでいきたいと考えています。

クライアントと協力共同した取り組みの模索

さらに今後は、クライアントへのアピールをより強め、協力共同して新しい取り組みに挑戦する提案を行っていくことがいっそう求められると考えます。
APRCでもESOMAR大会でも、発表事例の半数以上が「クライアントと調査会社の共同発表方式」をとっていました。調査会社単独ではリスクもある実験的な取り組みが少なくないことを反映していると思われます。中長期的にそうした取り組みはますます増えていくと思いますが、私たちの側から積極的にアイデア出しを行っていく姿勢がいっそう重要になるものと思います。

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