Beforeコロナ時代の常識を疑え執筆 : 田中 庸介

着飾った人と街を歩き、おいしいものを食べ、楽しいことに出会い、その場のナマの感動を分かち合う。そんな当たり前のことが新型コロナウィルスによって分断されました。
「引き籠れる者から引き籠れ」がその感染を防ぐ最良の手立てであり、現在(6月時点)も「できるだけ人との接触を避けよ」という基本的な対処方針に変わりはありません。

約100年前の第一次世界大戦中(1918年)に始まった「スペイン風邪」は、日本では第一波(1918年秋から1919年の春まで)、第二波(1919年末から1920年春まで)と2回起き、さらに終息まで2年ほどかかったといいます。日本で約2,300万人の患者と約38万人の死亡者(内務省統計)を出したこのパンデミック(爆発的流行)から推断できるように一時的に抑え込むことができているとしても、その流行が断続して訪れるとしたら、長期戦を覚悟(グローバルを含む)しておかねばならないと思います。

そして今後数年間は、消費者の消費性向(所得に対する消費の割合)は相対的に落ち込み、当たり前の時期にあった需要は“いつもの時期”を飛び越え、需要自体が変貌していくでしょう。

たとえば、緊急事態宣言発出後の20年4月のある日。在宅勤務中の私(マンション住まいです)は、まずゴミ集積所のゴミの多さに驚きましたが、缶・瓶・ペットボトルのゴミ出しの日には、ビールの空き缶の量に驚き、身近だった外飲みの需要が「ウチ飲み需要」に取って変わったのだと実感します。他にも、食品スーパーの生鮮食料品がいつも以上に売れ、お好み焼きやホットケーキミックスといった粉ものが売り切れになった、ホットプレートやたこ焼き器など、家族みんなで自宅で楽しめる、簡単で便利なモノが品薄状態となったなどのニュースも記憶に新しいところです。そして、ほぼ出歩くことがなく春を感じることなくG.Wに突入。5月5日のこどもの日に、近くの商店街にあるお餅屋さんに粽狙いの長打の列ができていました。いつものG.Wなら海外旅行などに出掛けているはずの子持ち世帯が、(普段ならヒマなお餅屋さんに)今年はいるのです(なぜあのお店に・・・)。家族単位の巣ごもり需要に関連する身近で時代がかったイベントや催事が“いつも以上に”見直されていると感じますし、その一定の型・手段・方法が感染リスクを感じさせないコト・様式であれば、赤の他人と接触しない・自ら遠くに出向く必要がないイベントや催事は注目されやすいだろうと感じます。他方、外出自粛・コロナ疲れの中で非日常なキャンプの気分を味わうキャンプ用品が売れているなど(簡易テントやキャンプイス、テーブル、シュラフ、LEDランタンなどを自宅のベランダやリビングで使用するおうちキャンプ)、今までの常識的な物の見方や事象の捉え方が通用しなくなっていくのだろうとも感じています。このことを少しリサーチ風に言い換えますと、ある標本から母集団を推測しようとした定量調査のリサーチ結果(Fact)は、それを解釈する人の古い常識で選択してしまった変数次第で、間違った結論を出すという確率が高くなっていくということを意味します。

そもそも推測統計学は、身長や人の意識・態度などの人間の特性に着目して収集された標本(人の特性という部分)データから母集団(全体)の定数の真値を推定しようという試みです。リサーチャーは調査をする前から、この確率変数はこの確率密度関数に従うだろう、だから母集団の真の定数は推定できるだろうという真値以外の仮定を既知としている、とされています。よくある区間推定の95%の信頼区間に真値が含まれるかどうかを知ることは理論的には可能とされていますが、100回の調査を行えばそれぞれの調査で測定した標本データの信頼区間を真値が横切る相対的な頻度は95回だということであり、実務で100回の調査を実施することはほぼ不可能です。貴重な1回の調査が、危険な5回の調査結果の1回目に該当していないか?という確認は誰もしていませんし、多数の同じ調査を同じ時期・場所・時間、同じ対象者に限って実施したとしても、その時の回答者の気分次第で結果は変わるという揺らぎを含みます。何より、過去に協力していただいた回答者に回答拒否される可能性があります。人は推測統計学(R.A.フィッシャーなど)が最初に寄与した農事実験の“小麦”(反復測定、無作為化、局所管理が可能)ではないのです。アンケート回答を断るなどといったこのようなバイアスを仮定しない前提で定量調査は行われるべきなのでしょうが、それも“現実問題ムリな話”なのです(あくまでマーケティング・リサーチにおいては、です)。

これは決してAsking調査のひとつである定量調査がムダだということではありません。誤解のないように書き添えると学問的な成果とそれを実務の現場で利用する有効性との間には多少の隔たりがあり、それを正しく認識することは第一義的なことであります。その上で許される可能な範囲で測定された調査結果(Fact)を解釈することが重要であり、その解釈を与える人の常識的な物の見方を現実世界に則してフィットさせていかねばならないということです。それは言うまでもなく社内外/クライアントとの議論も含みますが、こうした議論も在宅勤務(テレワーク、WEB会議等)という環境下では“いつもと違って”難しくなっていると思います。

同時に「人はなぜ働く場所を会社に求めるのか?」ということを今一度思い出さずにはおられません。経営学者の権威のお一人である伊丹敬之氏はその「経営を見る眼」(伊丹敬之 著,2017年,東洋経済新報社)で、多くの人が一つの会社でともに働くことのもっとも基本的な意義は「一人ではできないことも多くの人間が協力すればできるからである。協働にこそ、会社の本質がある。」とし、「多くの人間が協力してはじめて、意味のある仕事ができる。その仕事の場を提供してくれるのが、会社なのである。」と述べておられます。また「人間関係が職場で生まれ、さまざまな意味での社会生活の場が生まれる。人々は自分の仕事の内容にさまざまなレベルの欲求(愛情、尊厳、自己実現)を求めることが多い。単に経済関係だけが会社の実態なのではない。こうした職場共同体の中で、人々は経済的な所得を超えたものを満たそうとする」とあります。在宅勤務が主軸となる“職場”で、活発に情報交換が行われ、仕事の中の喜びや共感、感情が自然にタテ・ヨコに流れていくものでしょうか。外出自粛・国内外/県間移動・人の接触の抑制など、事業のバリューチェーンの活動が密閉された“閉ざされた組織”から現実の正しい理解が生まれくるものでしょうか。新型コロナウィルスは社会生活及び経営資源であるヒト・モノ・カネ・情報の「ヒト」と「情報」をも分断してしまうのではないか?と憂慮せずにはおられません。そこでさらに思い出すのは一本の映画です。

行動データ×意識データがWithコロナ時代の常識を強く牽引する
どちらか一方だけでは真実を見誤る

人は1日に2,000~3,000回も顔を触り、起きている時には1分間に3~5回顔に触る

これはコロンビア大学感染症専門医のチームが医療監修を務めた映画「コンディション」(2011年公開)のケイト・ウィンスレットのセリフです。『(これは)本当か?』と驚きます。で、実際に観察してみました。『・・・・。』『本当だ・・・。』とまた驚きます。今後Beforeコロナ時代の常識を疑うということが至る所(業界業種)で必要になってくると思います。そして上記のような無意識の行動も含め、行動データ(結果)が示す事実の重要性はコロナ禍において、さらに注視されることでしょう。現在のDMP(Data Management Platform)は、EC・購買、TV視聴データ、WEBログ(スマホ・PC)、位置情報、顧客企業・ヒトの属性情報など、あらゆるデータを企業間連携により、ひとつなぎで蓄積しています。このようなデータを前に、Beforeコロナにおける物の見方・常識が通用しなくなったとしても、ベイズの定理「パラメータの事後分布=尤度×パラメータの事前分布:P(B|A)=[P(A|B)*P(B)]/ P(A)」は、事前分布が無情報であれば尤度(その事象の起こりやすさ)によって事後分布が決まる/事前分布が利用できる時は尤度で事前分布を調整して事後分布を求めることになる、というようにデータを理解するのに非常に有効な手法も存在します。しかし、それでも人間の行動の背景にある意識・Why?は一足飛びにはわかりません。何より行動データだけで結論を求めると人はそれだけを見ようとし、その結果、真実(未充足のニーズなどを含む)を見失うかもしれません。“行動データは嘘をつかないので、Askingデータ(定量調査)は一切不要だ”という人はいないでしょうが、その両方の眼から何が見えるのか。大切なのはその真実に向かおうとする意志であり、これまでの常識を疑い続ける組織単位としての意志だと思います。

最後に、私が今回の新型コロナウィルス感染症に対する世界の動向の中で最も衝撃的だった言葉を紹介させてください。(6月上旬時点で)死亡者900名強の日本と、死亡者3.5万人、11万人の海外とは、コロナそのものに対する考え、重さが違っていると感じざるを得ません。

5月28日のNHKスペシャル「世界同時ドキュメント 私たちの闘い」より

<イタリア ナポリ>
Aさん「この危機が終わったら、僕たち人間は成長できるかな?」
Bさん「僕が思うのは我々はスタートラインに立つということだ。コロナ以前の世界に戻ってしまったら何も意味がないよ。」

■6月14日正午時点の新型コロナウィルス 感染者数、死亡者数
日本:感染者数 17,429人 死亡者数 925人
イタリア:感染者数 236,651人 死亡者数 34,301人
米国:感染者数 2,074,082人 死亡者数 115,402人

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