創造性を引き出す・・・脳科学の知見から執筆 : 三木 康夫

新型コロナウィルスの感染は収束する様子が見えづらい状況が続いています。緊急事態宣言もあり、1年近く私たちの行動範囲は狭まったままです。職場を含め、人との出会いも減り、映画やコンサート、スポーツ観戦、レストラン、居酒屋などの利用などなど。共感、感動、感激、感傷など感情の生起する頻度や振れ幅も小さくなっています。
リモートワークもウイズコロナで「ニューノーマル」になりました。リモートワークのメリット、デメリットについては多くの資料がありますが、ここでは、リモートワーク下で個人やチームの創造性を高めていくためにどのようなことが大事かを脳科学的にアプローチしたいと思います。とはいっても、脳の働きは自分自身では知覚できないので、脳科学者の茂木健一郎さんの著書(※注)からの引用が多くを占めます。

創造性・自分の“才能”を引き出す5つの方法。

  1. ドーパミンは出ているか?
    私たち人間は、ある行動(体験)をし、脳がドーパミンを放出したら、またそれを実行したくなるメカニズムを持っています。面白い企画を考えた⇒人に喜んで貰えて嬉しかった⇒もっと喜んでもらえる企画を考えたくなる!(人に喜んでもらいたい意欲が高まる=強化学習といいます)という感じです。快楽を感じるとき、ドーパミンが放出され、脳の神経細胞の結びつきが変わりその前にやっていた行動が強化されるのです。また、自分ができなかったことを達成できると、脳はドーパミンを放出して、意欲が沸き上がり才能を成長させることにつなげてくれます。「楽しいほうへ・嬉しいほうへ」行くことが脳を成長させてくれます。
  2. 「創造」することは「思い出す」ことに似ている
    【思い出すプロセス】:私たちの記憶は脳の側頭葉(長期記憶=アーカイブ)に蓄えられていて、前頭葉からの「これを引き出して」というリクエストに応じて、引き出すのが「思い出す」というプロセスです。
    【ひらめくプロセス】:私たちがアイデアを考えるときも、「前頭葉がリクエストを出して⇒側頭葉のデータを引き出す」、という同様のプロセスをたどります。前頭葉は「こんなものが欲しい!」と過去の体験のアーカイブである側頭葉にリクエストを出します。それに応じて側頭葉はリクエストに一番近いものを過去の体験の記憶であるアーカイブから引き出してくる仕組みになっているのです。ゼロから発想しているのではありません。
    「思い出そう」としているとき、脳はアイデアを出すときと非常に近いことをしています。頑張って思い出すごとに、創造性を生み出す、前頭葉と側頭葉の間の回路が確実に鍛えられているのです。

    創造性は、経験や知識があるだけでも、逆に意欲があるだけでも生まれません。「いいアイデアを生み出したい」「認められたい」という意欲と、豊富な経験データの二つが掛け算として“創造性”は生み出されます。

    創造性=意欲(認められたい、閃きを生みたい!=前頭葉)×経験(知識や体験といったデータベース=側頭葉(長期記憶)

    また、「無意識」状態がひらめきを生むこともあります。散歩中やトイレや風呂場でアイデアが生まれることが多いように、無意識な時にしか浮かび上がってこないひらめきもあります。

    スコット・バークンは「イノベーションの神話」で次のように言っています。
    「素晴らしいと思えるアイデアはすべて、無数の既存のアイデアからなっている。無数の既存のアイデアを知らない人、その組み合わせ方を何度も試し失敗を続けたことのない人、こういう人にイノベーションを期待するのは難しい。」
  3. 「睡眠」の役割も大事
    「睡眠」をとることで、(寝ているときも脳は休みません)記憶というデータを「整理」(符号化)して「貯蔵」できているため、アーカイブが生まれ、創造することができるのです。睡眠をうまく取るということは、ひらめきを生むための「仕掛け」をしていることに他なりません。
  4. 不確実性下での決断:「先の読めない未来」に飛び込むと、ひらめきや創造性が生まれる
    脳は規則性の押し付けを非常に嫌います。偶有性(半ば予想ができるけれども、半ば予想ができないという状態)に満ちた状況が人間の興味・欲望を最もかきたてます(ドーパミンが出ます)。不確実性はスリリングな快楽を生みますがそれだけでは(失敗するかもしれない)プレッシャーに耐えられません。私たちが先の見えない不確実な世界にチャレンジするためには、「自分を見守り」「支援してくれる」居場所や安全基地(セキュア・ベース)が必要です。ビジネス上の安全基地とは、「会社」や「友人や同僚」などです。 私たちは周りの人たちに支えられてこそ、不確かな世界へと挑戦できるのです。
  5. セレンディピティ(Serendipity)・・・ 「偶然幸運に出会う力」を見逃さない
    ノーベル化学賞を受賞した、島津製作所の田中耕一さんは、試薬の配合を間違えたことがきっかけで、たんぱく質の質量原理を発見しました(ネットで検索するとセレンディピティの多くの事例が紹介されています)。田中さんには過去の蓄積や学識によって研究の文脈づけがなされているからこそ、偶然の出会いを活かせました。それが偶然の出会いであることがわかり、セレンティビティを活かすためには、脳に準備ができている必要があります。セレンティビティをもたらす最も確実な方法はルーチンワークをこなしていくことです。その中で気づきや出会いが生まれます。ルーチンワークをしない、努力しない人や行動しない人にセレンティビティは訪れません。そのめぐり逢いの奇跡に出会える人は。常にチャレンジし続ける人だけなのです。

パスツール(ワクチンの予防接種という方法を開発)の言葉です。

「チャンスは準備された心に訪れる(Chance favors prepared mind)」。その分野について豊富な知見を有し、数多くの失敗を重ねてきた人にしか創造の女神は微笑んでくれません。

Web会議ツールやチャットツールも色々開発され、リモートワークで仕事の効率が上がるとの報告もあります。ルーチンワークについては(短期的には)私もそう思います。しかし、アイデア創造についてはどうでしょうか?
脳の創造性を高めるには、ドーパミンが必要です。ドーパミンのもとは「貢献したい・自己実現したい」と思う、仕事や組織に対するモチベーションやエンゲージメントです。不確実性にチャレンジするには組織やチーム・同僚の理解やサポートが大事です。そのためには十分なコミュニケーションが必要です。リモートワークではこれらを担保する必要があります。
リモートワークでのバーチャルなコミュニケーションはリアルに比べ、量的にも質的にもそしてカバレッジも十分とは言えません。バーチャルでのコミュニケーションはそれがビデオであっても、テキストによるコミュニケーションに近いと私は感じています。左脳の世界です。「創造性」には右脳の働きが必要です。チームや関係部署の人たちとのリアルな世界でのちょっとした相談、インフォーマルな会話、丁々発止の議論、無駄にしか見えるかも知れない自由な会話からの刺激はアイデアの発想や課題の発見につながるだけでなく、新しいことにチャレンジするモチベーションにもなるのではないでしょうか?

リモートワークはもはや不可逆です。リアルとバーチャルの最適ミックスは何なのでしょうか?リモートワーク下で、多様で柔軟な思考や適応力・創造性を担保するにはどうしたらよいのでしょうか?

※注
参考にした主な書籍:
「欲望解剖」 茂木健一郎、田中洋 幻冬舎
「考える力を作るノート」強く生きるヒント9 茂木健一郎他 講談社
“偶然という贈り物” Nikkei The STYLE 2020年12月20日号

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