私たちが商品を「選択」するとき執筆 : 三木 康夫

久しぶりに、シーナ・アイエンガーの「選択の科学 コロンビア大学ビジネススクール特別講義」(2010年、文芸春秋)を読み直す機会がありました(原題は、The Art of Choosing)。この本のメッセージは、“私たちの人生は「運命」「偶然」「選択」の3つから成り立っている。そのうち、選択だけが自分でコントロール可能。私たちは日々様々な選択をしているが、今まで自分がしてきた選択の総和で今の自分があり、将来の正しい選択が自分の未来を切り開く力になる。だからこそ選択が重要である。” ”選択は科学の力を借りて出来るかもしれないが、選択には不確実性と矛盾が伴い、その中での選択は本質的に選択がArt(前掲書では”芸術“と訳しています)である。“ということだと思います。

本稿ではずっと視野を狭めて、この本の中で紹介されている“ジャムの実験“を紹介しつつ、私たちが商品を選択するときに、意識的、無意識的にどんなことが起きているかを科学したいと思います。余談ですが、私がこの本を手に取ったきっかけは、「選択の科学」に惹かれてのことでした。

ジャムの実験・・・選択肢過多効果

この実験については、マーケティングや行動経済学関係の書籍、インターネットなど、様々なところで引用されていますが、中には誤解していると思われるものもあるので、実験内容とその結果を少し詳しく紹介します(前掲書P226‐230)。

サンフランシスコの高級スーパーマーケット、ドレーガーズ(豊富な品揃えが売り。例えば、ビネガー150種類、チーズは250種類、ジャムは300種類、農産物は500種類などの品揃え)の店内にジャムの試食コーナーを設置しての実験。ジャムを実験に使った理由は、試食しやすく、好き嫌いが少ないと判断したからで、また試食したジャムのブランドは、種類が豊富で品質が高い、ウィルキン&サンズでした。
試食コーナーを買い物客の目を惹きやすい、スーパーの入り口近くに設置し、試食に供するジャムの種類を、多数の品揃えと少数の品揃えで数時間ごとに入れ替えた。多数の品揃えでは、同メーカーが提供している28種類のジャムのうち、24種類(試食客がいつも買っているという理由で、ジャムを選ばないように、ストロベリー、ラズベリー、グレープ、オレンジ・マーマレードの一般的な4種類は除いた)を、少数の品揃えでは、そのうちの6種類を揃えた。試食コーナーへの立ち寄り客には、好きなだけ試食を奨めたが、客が試食したジャムの種類は、どちらの場合も平均2種類程度だった。
売り場近くに観察ポイントを設け、来店者数とジャムの試食に立ち寄った客の人数を数えた。その結果、24種類のときは、買い物客の60%が試食に立ち寄り、6種類の時は40%だった。試食コーナーに立ち寄った客全員に、このメーカーのどのジャムにも使える、1週間有効の1ドル引きクーポンを渡した(ジャムを購入したほとんどの人が、受け取ったその日のうちに、クーポンを利用した)。試食コーナーではジャムを販売しなかったので、顧客はジャム売り場に足を運び、レジで支払いをする必要があった。使われたクーポンを集計した結果、6種類の試食に立ち寄った客のうち、ジャムを購入したのは30%だったが、24種類の場合、実際にジャムを購入したのは、試食に立ち寄った客のわずか3%だった。

この実験の結果を整理すると、次表のようになります(前掲書では、来店者数は記述されていません)。上記の30%と3%を比べて、10倍の差としている記事がありますが、来店者数をベースとすると、差は6倍(12% vs 2%)となります。

6種類の品揃え 24種類の品揃え
来店者数 260(100%) 242(100%)
試食者数 104(40%) 145(60%)
購入客数 31(12%) 4(2%)

多数の揃えのほうが試食コーナーへ立ち寄った人の割合は高かったのですが、購入率(コンバージョン)は、少ない品揃えのほうが6倍も高い結果となりました。品揃えが多い場合は、立ち寄った客の多くが選択に戸惑い、結果として買わないで立ち去り、6種類の品揃えの場合にはこのような迷いが生じることはなく、結果として購入率が高くなりました。選択肢が多くなると迷いが生じて、かえって購入率が下がるような現象を、「決定麻痺現象」といいます。

多すぎる選択肢が実際の購入につながらないのは、次のような理由があるからだと考えられています。

  • 選択肢が多すぎると、その中から1つを選ぶのに時間と労力がかかり、決断疲れしてしまう。結果として、選択するのを放棄してしまう
  • 多くの選択肢の中から1つを選ぶ場合、これを選んだ場合や他を選んだ場合の結果を想像し、それが購買意欲を削いでしまう(誤った決断をしてしまいそうで選択を躊躇してしまう)

筆者注:
1:選択肢の多い試食の場合、試食者は単に”興味本位“の客の割合が多く、選択肢の少ない試食の場合は、もともと購入意図があり、”商品の良さの確認“という試食者の割合が多かったのではないかという疑問が残ります
2:この実験では、試食コーナーではジャムを販売せず、顧客は普段のジャム売り場で購入するデザインでした。試食売り場で販売も同時に行っていたら、また違う結果が出ていたかもしれません

ジャムの実験の出所:
Iyengar,s.s.,& Lepper,M.R.(2000), When choice is demotivating; Can one desire too much of a good thing? Journal of Personality and Social Psychology, 79(6), 995-1006

選択のパラドックス

選択のパラドックスとは、人は多くの選択肢を見せられると得した気分にはなるが、同時に選択を困難に感じて、結果的に満足度が低くなるという心理です。選択肢が多すぎることが、かえって心理的な負担を増やしてしまうことがあります。その理由は:

  • 選択肢が増えるほど、正しいものを選んだかどうか自信が持てなくなり不安を覚える。選ばなかった選択肢の良いところを想像し、選んだ選択肢にその分不満を持つ
  • 選択肢が多いと比較する対象が増え、期待値(これだけ多くの中から選んだのだから、よい結果が得られる)が上がり、その分選択したものに対する満足感が得られない。間違った選択ではないかと考えてしまう

多くの選択肢の中から選ぶことが、そうでない場合と比べ、必ずしも満足度が高くなるわけではありません。

一方、選択肢が多いことは、決して悪いことではありません。選択肢過多効果が顕著になるのは、難しい選択を迫られる場面だったり、自分にとって関与度の高くないものについて選択したりする場合です。選択肢が多くても、選択に関する知識や経験があれば、一度に処理できる選択肢は多くなります。どの選択肢が自分にとって適しているか、を理解していれば、期待値が上がり過ぎることはなく、選択による後悔はなくなります。むしろ選択肢が多いほうが良いと感じるようになります。

多数の選択肢から選り分けるために

多くの選択肢の中から正しいと思われる選択肢を選択する方法として、アイエンガー教授は次のような提案をしています。

  1. 目の前にある選択肢を吟味する前に、まず、自分が何を望んでいるかを考え、選択肢を絞る。自分の選択は常に正しいとは限らず、完璧なものなど選ぶことはできない、と考えるようにする
  2. 特定の領域(重要な選択にかかわる分野、興味のある分野など)の専門知識を増やして、認知能力や認知の許容量の限界を広げ、選択から最小限の努力で最大限の効果を引き出す
  3. (自分の精通していない分野で賢明な選択をするためには)その分野に精通している人の助けを借りる(例えばワインのことはソムリエに相談する)、あるいは集団の知恵を利用する(例えばカスタマーレビューやリコメンデーションなど)
  4. 選択肢を分類する(ステップワイズで考える)・・・選択肢を扱いやすい数に分類し、それぞれの分類に、やはり扱いやすい数の選択肢を含める(例えば、雑誌売り場での「健康・フィットネス」「ホーム&ガーデン」といった分類、あるいは一つの商品をいくつかの分類に仕分ける…キーワード検索やタグの利用など)。多数の属性を基に選択しなければならない時、選択をどの順序で行うか、選択肢のツリーを作る(例えば車のオプションを考えるとき、選択肢の少ない順から始める方が効率的)

多属性効用理論・・・消費者行動理論の伝統的な考え方

パソコンを購入する場面を想定すると、消費者は自分がすでに持っているパソコンに関する知識や広告、カタログなどタッチポイントから得た知識で、パソコンの性能、価格、デザインなど複数の属性を考慮しながら、購買の意思決定をします(このような複数の属性の情報を検討してなされる決定を、多属性効用理論といいます)。ここでの評価基準・ルールには大きく分けて「補償型」と「非補償型」の2つがあります。
補償型では、製品を評価する場合、ある属性の評価が低くても他の属性の評価が高ければ、そこはカバーされて総合的な評価が下されます。非補償型は補償型のような属性間の補償関係がないような(評価基準となる属性で劣っている選択肢は、他の属性が優れていてもカバーできないと考える)ルールです。これには「連結型」「辞書編纂型」「逐次消去型」「感情参照型」などのルールがあります(図中の説明を参照下さい)。

他属性効用理論

補償型ルールを使うのは、消費者にとって情報処理の負担が大きいため、その商品についての興味や関心度が高く、自分の持つエネルギーなどの資源を投入しようと思っている場合に限られます。上図の例では、選択肢となるブランドごとに属性評価と属性の重要度が積算され、最も高い評価点(知覚価値)をとったものが選択されます(Aブランドの知覚価値は:10x0.6+6x0.1+5x0.3=8.1となります。私たちが普段、調査で属性の重要度とそれに対応する属性でブランドの評価を質問するのはこのためです)。選択肢の数が少ない場合は補償型が、多い場合は非補償型のルールが適用されることが多いようです。選択肢や検討する属性が多い条件では、消費者は多くの情報を処理しなくてはならないため、それを回避するために、単純な決定方略が採用されます。情報の負荷が大きくなりすぎると決定を回避することもあります(先に説明した、選択肢過多効果です)。

高関与商品では多くの属性について評価が行われ、合理的思考に基づいて選択が行われますが、低関与商品では情報処理を単純化し、素早い選択がなされます。日常の購買意思決定の現実の姿は多属性効用理論よりもはるかに簡略化されたものが多いのです。私たちは商品選択に際して、エネルギーや時間・コストを減らして購入決定のプロセスを簡略化(選択ヒューリスティクス)しようとします。自分の経験をもとに、頭の中に既にある大まかな基準に従って、直感的判断(いつも買っているものを選ぶ、よく宣伝しているものを選ぶ、最も安いものを選ぶ、などシステム1による判断)で選択をしているのです。

良い判断をするには、「良し悪しを判断する」情報が必要です。そのためには「知識や経験」などの学びが必要です。さらに私たち人間には思考の癖である、様々なバイアスが存在します。これらを学ぶことが重要とアイエンガー教授は言っています。

この稿では書ききれませんでしたが、選択にかかわるバイアスとして、教授は次の4つを挙げています。

  1. 想起のしやすさ・・・記憶の中の取り出しやすい情報を基にして判断をしてしまう
  2. フレーミング・・・情報の提示のされ方によって受け取り方がことなり、判断に影響を及ぼす
  3. 関連付け・・・情報間の関係を推論して判断を下してしまう
  4. 確認バイアス(確証バイアス)・・・自分が有力と思っている選択肢を正当化するような情報を探して判断をしてしまう。

これらはいずれも、「自動システム(システム1と同じ)」と「熟慮システム(システム2と同じ)」が一致せず、自動システムを熟慮システムが制御できない時に起こります(システム1とシステム2の働きについては、1つ前の私のコラム「思い込み(バイアス)に左右されない方法」を参照下さい)。
https://insight.rakuten.co.jp/knowledge/researchcolumn/vol41.html

新型コロナウイルスの流行により、私たちは価値観・ライフスタイルや働き方など、生活全般にわたり急激な変化を余儀なくされてきました。そこには様々な「選択」があったと思います。アフターコロナに向かい、さらに多くの「選択」の機会がある筈です。「選択」においてよい判断をするためには、選択の対象についての正しい情報とそれに対する理解、および人間の思考の“偏り(バイアス)”を理解することが大事です。アイエンガー教授が言うように、「私たちは日々様々な選択をしているが、今まで自分がしてきた選択の総和で今の自分があり、将来の正しい選択が自分の未来を切り開く力になる」のだと思います。

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