消費者調査でブランドエクイティを測る
Keller and Lehmannはブランドエクイティの測定方法を次の3つに分類している。
1.顧客レベルでのブランドエクイティ
費者のブランド知識によって測定する。具体的には認知(Awareness)、連想(Association)、態度(Attitude)、愛着(Attachment)、活動(Activity)の各要素を階層構造で捉える。
2.製品市場レベルでのブランドエクイティ
価格プレミアム、選好プレミアムなどマーケティング成果をベースとしたブランド評価
3.財務レベルでのブランドエクイティ
ブランドエクイティといったときに、2つの考え方があります。
1.製品そのものに付加的
たとえば製品そのものの価値(ベースライン価値)があり、ブランドエクイティはそれに上乗せされたものと考える
2.製品そのものの価値を含めた全体的なもの
消費者が判断できるのはこれである
本稿では消費者調査(消費者のブランドに対する知識・評価・態度・行動などを調査したデータを使う)によるブランドエクイティの測定に焦点を当てます。購買データを使ったブランド評価やマーケティングサイエンスを使ったアプローチはスコープ外とします。 また、プロダクト・ブランド(コーポレート・ブランドでなく)でかつ消費財(特にFMCG)のブランドを想定して以下を進めます。
ブランドはどこに存在するのか?
あなたはコンビ二にビールを買いに来ました。棚には多くのビールの商品が並んでいます。この棚にある商品自体はマーケティングでいうところの「ブランド」ではありません。では、ブランドはどこにあるのか・・・?
ブランドはあなた(消費者)の頭の中(記憶の中)に存在しているのです。
ブランドとは、「商品・サービス・広告・店舗・評判など(つまりはタッチポイント)と接触した結果、消費者の心(頭)の中で特定の名前やシンボルの下にまとまった連想(=ブランド連想:知識、体験、印象、感情)の集合体」であるといえます。
たとえて言うと、消費者の心の中に商品=ブランドごとに名前がついたフォルダがある、という感じです。このフォルダは人によって、厚かったり、薄かったりしますし、簡単に記憶の中から取り出すことができたり、検索できるよう中身がきちんと整理されていることもあれば、どこへ格納したか忘れてしまったり、というイメージです。
ちなみに、片平秀貴先生は、「パワーブランドの本質」の中で、「顧客の頭の中に、そのブランド名義の預金口座が開かれているかどうか」(そして預金残高がどの程度あるか・・・筆者による)という喩えを使っています。
消費者は日常、様々なマーケティング刺激(商品、ブランド、サービス、広告、販促、コミュニケーション活動、イベントなど)に接触して、その経験を記憶に取り込み、それを次の消費行動に活かしているのです。こうした刺激から記憶そして行動に至る過程で、消費者は自分が触れる商品やサービスに意味を与え、知識という形で記憶中にそれを留めるのです。ですから、マーケターの課題はいかにして消費者に自社ブランドとその属性を好意的に、正しく、鮮明に記憶してもらい、さらにそれをスムースに想起してもらい購買につなげていくか、にあります。
大御所のコトラー教授は「ブランドとは消費者のマインドの中に存在するもの。消費者の知覚と思い込みで形成されている。一貫性と共感性が大事」としています。
ここで注意すべきことは「思い込み」ということです。消費者はタッチポイントが訴求・発信しているコミュ二ケーションを自分なりのフィルターを通して選択的に入手し、脳細胞に記憶しますが、皆がみな、正しくコミュニケーションを理解して、記憶に蓄積しているわけではありません。
私たちの周りには多くの刺激が溢れていますから、消費者の記憶に届けるためには、そのなかで消費者の注意を引かなければなりません。一貫性のない、ばらばらなメッセージではきちんと整理された情報として脳細胞に入っていきません。
(ブランドはどのように存在しているのか?=消費者のブランド知識構造とそれを理解する調査のアプローチはこの稿で引き続き、紹介する予定です)
ブランドを強くすることは何故大事なのか?
ではブランドが強いということは、ブランドオーナーにとってどのような意味があるのでしょうか? 強いブランドは、消費者に瞬時に多面的な価値やイメージを連想させ、消費者の購買行動の様々なプロセスに影響を与え、結果としてビジネスへの恩恵をもたらします。 具体的には次のチャートのように4つの要素に分けることができます。
- 知覚品質を上げる
- 選択と推奨
- ロイヤリティを高める
- 自己表現
ブランドエクイティ測定調査の理論的背景
ブランドエクイティの消費者調査のデザイン・分析の理論的背景となっているのは、David A. Aaker(以下、アーカー)のブランドエクイティの概念を整理したものと、Kevin. L. Keller(以下、ケラー)のブランドエクイティをマーケティング活動によって高めるブランドマネジメントの全体プロセスをまとめたブランドエクイティ・ピラミッドのモデルがあります。
ブランドエクイティはアーカーによるとブランド認知、知覚品質、ブランドロイヤリティ、ブランド連想の4つの要素に分けられ、それぞれ消費者調査によって数値化することができます。ただし決まった調査項目があるわけではありません。当該ブランドポジショニング、ブランドパーソナリティなどに基づきテイラーメイドで作っていきます。
ブランドエクイティの概念をマーケティングに展開したのがケラーで、マーケティング活動によってブランドエクイティを高めるマネジメント・プロセスを体系立てました。ケラーのブランドエクイティ・ピラミッドは強いブランドエクイティを構築するため、消費者がブランドを認知した上で(単なるAwarenessとは違います)、強く、好ましく、ユニークなブランド連想を育み、ブランドとの絆を築くまでのぼりつめる、連続したステップと捉えています(CBBE=Customer Based Brand Equity)。そのピラミッドは4つのステップ(階層)と6つのブランド構築ブロックに分かれていて、ブランドエクイティの創出にはピラミッドの頂点に立つことが必要だとしています。そして頂点に達するには、左側の機能的価値と右側の情緒的価値の2つのルートの両方を押さえる必要があります。
ここでのイメージやフィーリング、パフォーマンスやジャッジメントの評価属性はブランドのポジショニングやブランドパーソナリティに沿ったものでなくてはなりません。
参考までに、ケラーのブランドピラミッドをコカコーラとペプシを比較したものを紹介します。第3者が作成したものですが、6つのブロックにある属性を参考にしてください。
https://cokevspepsibm2013.wordpress.com/次回からはブランドエクイティを測る、具体的な調査デザインについて解説します。具体的には
様々なブランドのエクイティを横断的に測るアプローチとして
- Brand Asset Valuator(ヤング&ルビカム社)
- ランド・ジャパン(日経ブランドコンサルティング)
特定カテゴリー内のブランドのブランドエクイティを測るアプローチとして
- 価格(差)でブランド価値を測る・・・WTP(Willing to pay)およびコンジョイント分析、BPTO(Brand Price Trade Off)
- ブランド選択モデル(認知⇒ロイヤリティ)を考慮に入れた単純なアプローチとNPS=Net Promoter Scoreなど
- 外資系調査会社のアプローチ(Millward Brown のBrand Dynamics、NielsenのWinning Brands, IPSOSのEquity Builderなど)
- ケラーのピラミッドモデルを取り入れた旧Research InternationalのEquity Engine
などを紹介する予定です。5と6はアーカーやケラーのフレームワークがベースになっています。