ブランドエクイティ評価調査を設計する

今回は、ブランドエクイティを測る、いくつかの典型的な調査手法やフレームワークを紹介します。自社ならではのブランドエクイティ(価値)評価調査を設計する際の、スタートポイントの情報と考えてください。
紹介する手法は次のとおりです。

A.特定カテゴリー内のブランドのブランドエクイティを測る手法として

  1. 価格プレミアムでブランド価値を測る・・・WTP (Willingness to pay)、およびコンジョイント分析、コンジョイント分析の応用としてのBPTO (Brand Price Trade Off)
  2. ブランド選択モデル(認知⇒選択⇒ロイヤリティ)を考慮に入れた単純なアプローチとNPS(Net Promoter Score)
  3. 外資系調査会社のアプローチ(Millward Brown のBrandDynamics)
  4. ケラーのブランド・ピラミッドモデルを取り入れた、旧Research InternationalのEquity Engine

B.様々なブランドのエクイティを第三者機関がカテゴリーの枠を越えて測る手法として

  1. BrandAsset Valuator(ヤング&ルビカム社)
  2. ブランド・ジャパン(日経BPコンサルティング)

手法の紹介

1.価格プレミアムでブランド価値を測る


1-1.WTP (Willingness to Pay)

ブランドエクイティを価格プレミアムという視点で測ろうとするアプローチです。価格プレミアムとは製品の価格のうち、ブランドがもたらすプレミアム部分を意味します。WTPとは消費者がその製品に対していくらまでなら支払ってもよい、と考えているかを示す金額のこと。同じスペックの商品コンセプトにブランドを付与した場合とノーブランドの場合でWTPを比較し、両者の比較からブランドがもたらす価値を金額によって示すことができる(日立vsノーブランド、東芝vsノーブランドなど)と考えます。また、製品属性に関する知覚や評価の差はブランドの持つハロー効果と考えることができます。

ただし、このアプローチは価格レベルの低い製品カテゴリーにはうまく機能しないようです。


1-2.コンジョイント分析による価格プレミアム、その変形としてのBPTO

簡単な例を想定します。デジカメの属性として(1)ブランド(水準はブランドAとブランドBの2水準)、(2)サイズ(大、中、小の3水準)、(3)価格(1万円、2万円、3万円の3水準)としてコンジョイント分析を行った場合、ブランドAとブランドBの部分効用値の差が2.3という結果を得たとします。価格では1万円と3万円の部分効用値の差が3.5であった場合、3万円と1万円の差の2万円は1効用値あたり0.57になります。(2万円÷3.5=0.57万円=5,700 円)、ブランドAとブランドBの部分効用値の差は2.3ですから、2.3×5,700円=13,100円。ブランドAはブランドBに対して13,100円のプレミアムであるといえます(ただし価格弾力性が一定であることが前提)。

コンジョイント分析の応用として、BPTO(Brand Price Trade Off)があります。属性をブランドと価格の2水準のみに絞るかわりに、ブランド及び価格の水準を多く(10~15程度)することができます。シミュレーションでBブランドの価格を市場実勢価格に設定し、Aブランドの価格水準を段階的に動かしたとき、AブランドとBブランドのプリファレンスシェア(選好度=シェア)が同じになったところのAブランドの価格を比較することによって、ブランド価値の差を価格差で見ることができます。もちろん上記のような、コンジョイント分析のように部分効用値の差で見ることもできます。

ただし、私の経験では、効用値で見る場合、ブランドの価格差があまりないような製品カテゴリーの場合(たとえば缶ビール)はうまくいきますが、価格差や認知度・使用率に大きな差がある場合、非現実的な結果が出るようです。

BPTO:ブランドAとBのブランド価値の差

2.総合力でブランド価値を測る


2-1-1.ブランド選択モデルを考慮に入れたアプローチ

典型的なブランド選択モデルを下図に示しました。入手可能集合から最終選択集合までをいくつかのステージで考えます。このモデルが使えそうだと考えれば、調査票の回答選択肢では次のように展開できます。非常に単純です。

  • 見聞きしたことがない銘柄
  • 見聞きしたことがある銘柄
  • 見聞きしたことはあるが、一度も使用(購入)したことがない銘柄
  • 今までに使用(購入)したことがある銘柄
  • この銘柄以外は買おうとは思わない
  • 買ってもよいと思う2~3の銘柄のひとつ
  • もしかしたら買うかも知れない銘柄
  • 買おうとは思わない銘柄
ブランド選択モデル

2-1-2.NPS(Net Promoter Score)

NPSはロイヤルティ・マーケティングの権威、F. ライクヘルドの提唱した、顧客との関係性(カスタマー・ロイヤルティ)を測る指標。あるブランドやサービスを親しい人に薦めたいと思う人の正味の割合のことです。「あなたが○○○(ブランド、サービス)を友人や同僚に勧める可能性はどの位ありますか?」という簡単な質問に、0(勧めない)~10(勧める)までの11段階のどこにあたるかを答えてもらいます。

その結果、10~9と答えた集団を推奨者(Promoters)、8~7を中立者(Passives)、6~0を批判者(Detractors)の3つに分類する。NPSは(推奨者)-(批判者)の割合の差です。顧客満足度が、商品やサービスに対する品質評価であるのに対し、NPSは商品・サービスへの思い入れの深さ(ロイヤルティ)の指標といえます。

三木康夫

2-2.ブランド・ダイナミクス

ミルウォード・ブラウン社(日本ではカンター・ジャパン)が開発したブランド・ダイナミクスでは、ブランドエクイティを5つの段階から分析します。このモデルでは顧客の態度や選好を「ブランドの存在感の確立」から「顧客との絆の構築」までの連続的な段階として捉えます。ブランド・ダイナミクスのピラミッドのそれぞれの段階での長方形の幅は、測定した顧客や見込み客の割合によって定まります。

ブランド・ダイナミクスのような階層モデルの手法の強みは、それぞれの段階に至る顧客や見込み客の比率を競合ブランドと比べながら追跡することで、ブランドの動きをモニターできることにあります。また、顧客を上位の段階に引き上げるための打ち手が分かるので、マーケティング課題を明確に設定することができます。マーケターはこれを使うことで、それぞれの段階を構成する自社・他社ブランド双方の顧客の特質を詳しく検証できるのです。
(このアプローチは態度の測定に基礎を置く手法であるため、ブランドエクイティの一面である顧客や見込み客のブランドに対する情緒的な面しか捉えられない。・・・ブランドエクイティの財務的価値は測定できない)

ブランド・ダイナミクスのピラミッド(Millward Brown)

2-3.構造を測る;Equity Engine(EE)

エクイティ・エンジンはリサーチインターナショナル(RI)が開発したもので、他のモデルに比べ、ケラーのモデルをより強くフォローしているといえます。EEではブランドエクイティをブランドが提供するAffinity(情緒的ベネフィット)とPerformance(機能的ベネフィット)の2つの潜在変数のコンビネーションと考えます。情緒的ベネフィットは、Authority(権威)、Identification(一体感・共感)、Approval(承認)の3要素からなり、各構成要素はさらに各3つの要素から構成され、合計9つの要素で情緒的ベネフィットを測るモデルです。ブランドエクイティが3×3の9つの要素で説明できることは、RIが世界の主要国でパイロットテストを行った結果、ユニバーサルであるとしています。各要素にはそれを表す、決められた態度ステートメントが割り当てられています。一方機能的ベネフィットの方は、調査対象カテゴリーによって変わります。

ブランドエクイティの総合的な強さは、対象者の想起集合ブランドのチップゲーム(11点の定和配分法)のスコアをインデックス化したものです。

エクイティ・エンジンのモデル

1. BAV(Brand Asset Valuator)

BAVは広告代理店のヤング&ルビカム社(Y&R)が1993年より実施している同社オリジナルのグローバルベースのブランド・トラッキング調査です。BAVは開発以来40カ国で18万人を超える消費者を対象に、同じ調査手法で120回以上実施されてきており、データベースとしての信頼性は高いとみなされています。

この調査の手法は56の測定項目を4つの主要指標に集約します。Y&R 社によれば、4つの指標(要素)を組み合わせることで、ブランドの成長・衰退の要因やブランドパワーの回復方法を他のアプローチよりも明確に表せる、といいます。

BAV の分析の前提・・・ブランド構築のプロセスは特定のパターンがある連続したプロセスであり、他社ブランドとの差別化から始まり、次に消費者の認知を強力に進めることでブランドは最高潮に達することができるという仮説が前提になっています。このアプローチでは差別性が最も重要になり、他の要素はいずれも差別性を基点として作られます。 BAV モデルに沿えば、差別性が適切に結びつくことで潜在成長力が与えられ、次にブランドに対する尊重が生まれた後に、ブランドの認知が強化され、この段階で、現在のブランド力が規定されます。

BAV は、本来的にはブランド診断ツールであり、これによって市場機会を見つけ出し、ブランドの衰退を押し留め、自社ブランドの価値を同種のブランドの価値と比較しながら理解できるのです。

BrandAsset Valuator(BAV) ヤング&ルビカム社

2. ブランドジャパン

ブランドジャパンは、日本で使用されているブランドを対象とする、ブランド評価の調査プロジェクトです。日経BPコンサルティングの主宰で、2001年から毎年調査が実施されています。(消費者の評価とビジネスパーソンの評価の2つの調査に分かれる) ブランドジャパンの消費者評価モデルは下図のように、一次因子4つ(フレンドリー、コンビニエント、アウトスタンディング、イノベーティブ)であり、それぞれ質問項目によって測定されます。消費者評価の対象ブランドはブランド想起に関する事前調査によってノミネートされた1,000ブランドであり、18歳以上の消費者32,000サンプルを対象としています。

ブランド・ジャパン: B2C指標の因子構造

この稿を作成するにあたり、私自身の経験の他に、次の資料を参考にしました。

1.ドン・シュルツ著,「ドン・シュルツの統合マーケティング」,ダイヤモンド社,2005年
2.守口剛、佐藤栄作、編著,「ブランド評価手法:-マーケティング手法によるアプローチ-」,朝倉書店,2014年

1.に関しては、ブランドエクイティ測定について、財務の観点からのアプローチもカバーしている。
2.に関しては、マーケティング・サイエンスを使った、購買データを利用したブランド評価の手法についても詳しい。

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