購買と消費後の評価さらに顧客満足まで
購買
消費者は購入候補の代替案の評価に基づいて選好を形成し、最も好む商品を買う意図を形成します。購入するもの(カテゴリーやブランド)が決まれば、それを、いつ(時期)、どこで(店)、どの位(量)、いくらで(価格)買い、どのように支払うか、を決めます。ただし、関与度の低い商品の購入の場合、経験則を元に情報処理は簡略化され、半ば無意識のうちに素早い選択がなされます(ヒューリスティクスと言います)。
購入するブランドの選択・購買がいつも事前の購入意図どおりに行われるとは限りません。購買行動を取り巻く情況要因によって購買意図と結果の間にズレが生ずることがままあります。
購買行動は事前の計画性により、1.計画購買、2.部分計画購買、3.非計画購買の3つに分類されます。1の計画購買とは、「特定のブランドの購入をあらかじめ決めており、それを購入する」ケースです。2の部分計画購買とは、「製品カテゴリーレベルで購入予定があり、購入ブランドは店内で決める」ケースと「特定のブランドの購入をあらかじめ決めていたが、店内で同カテゴリーの他のブランドにスイッチする」場合です。この場合、価格や店内での刺激が変更の原因となります。3の非計画購買は事前の計画なしに店頭で起きる購買行動のことです。非計画購買率は米国では40~50%、日本では70~80%程度だそうです(ただし1980年代の調査結果です。出所: 水野誠著、2014年「マーケティングは進化する」、P234)。日本で非計画購買率が高いのは、身近にスーパーやコンビニがあり、買物の頻度が高いことによると考えられます。
非計画購買であるからといって、商品がランダムに選ばれるわけではありません。消費者は無意識のうちに自分の記憶の中にあるブランド知識にアクセスしてブランド選択を行っているのです。ですから、消費者の頭の中に自社のブランドについての知識(とりもなおさずポジショニング)を育てていくことが必要です。
計画購買の割合は商品カテゴリーによってかなり違いがあります。チラシに載った商品、重いもの・かさばるもの、価格の比較的高いもの、などは計画購買の割合が高いものです。筆者の経験では、店に行く前に購入することを決めていた銘柄をそのまま購入する割合は90%を越えており、店に行く前に銘柄を決定してもらうことが重要です(計画購買率は高いとはいえませんが)。
アサエルの購買行動類型
アサエルは購買行動を、1.製品関与・購買関与の高低と2.同一カテゴリー内のブランド間の知覚差異の大小からなる、4象限で(下図)購買行動を類型化しています。この中の「バラエティ・シーキング型」とはブランドスイッチ行動の一種ですが、この場合のブランドスイッチは、消費者が製品に不満があるからではなく、色々なブランドを試して、そこに楽しみを見出そうとすることから起こります。多くの類似したブランドがあり、購入頻度が高い商品カテゴリーではバラエティ・シーキングによるブランドスイッチが起こりやすいのです。バラエティ・シーキング型の商品カテゴリーにおけるマーケットリーダーの戦略は、消費者の習慣的な購買を促すことになります。店頭で消費者の目が他のブランドに行かないよう、多様な製品ラインで棚スペースを確保する、在庫切れをなくす、リマインダー広告をうつ、などです。一方チャレンジャーの戦略は消費者の購買・消費のサイクルを壊すような戦略(たとえばサンプリング、特売、増量、期間限定など)になります。
消費後の評価
消費者は購買した商品・サービスを使用した結果、その評価が選択前の期待水準を上回れば満足し、下回れば不満足となります。満足・不満足の結果は自身の次回以降の購入意向に影響します。満足であれば、次回以降の購入時に代替商品の情報探索をすることが減り(ヒューリスティクスの単純化と言います)、次第に習慣的にその商品を選ぶようになります。逆に不満足であれば、次回の購入時に他の商品の「情報探索」や「購買前の代案評価」が行われます(ヒューリスティクスの精緻化と言います)。
消費者が一度購入した商品の再購入を決める際には、期待通りの満足の経験ではなく、「具体的にはっきり記憶に残る最高・最低の経験」に左右されます。人は平均的な満足の経験では、記憶に残らず(二重過程理論で言うシステム1=速い思考=直感的情報処理、高速で自動的に働く)、ブランド知識・記憶は深まりません。ある程度以上の顧客感動(Customer Delight)がないと、長期記憶に繋がるシステム2(遅い思考=分析的処理、働かすには注意力が必要で意識的な努力が必要)は作動しません。逆に不満はその大小に関係なく、常にシステム2が作動し、記憶に残り、それをなくすことが難しくなります。満足は何回重ねても記憶に残りにくく、不満足は一度の経験でも記憶に残ってしまうのです。ともかく不満足と思われないことがなにより重要です。
また、満足・不満足の結果は自分自身の購入意向に影響するだけでなく、クチコミ・インターネットなどでほかの消費者にそれが伝わります。
顧客満足(CS= Customer Satisfaction)
購買および消費活動の後、消費者はそのプロセスを評価します。とくにサービスや車のような買回り品の場合、CSが重要になります。
顧客満足は顧客が感じた価値が事前の期待値を上回った場合に生じます。そしてその差が大きいほど顧客満足は大きくなります。
顧客満足が高まれば、顧客生涯価値(ライフタイム・バリュー)が高まるだけでなく、顧客紹介価値(新規顧客の紹介)、顧客影響価値(クチコミなどによる他の顧客への影響)、顧客知識価値(革新や改善のための有益な情報の提供)までもが高まります。
顧客満足度調査は、評価の低い部分を発見して、改善していくという考え方が主流でした。顧客満足度を高めるだけでは「新規顧客獲得」、「リピート率向上」には必ずしも繋がらない、ということで、顧客満足度調査での総合指標は「全体的な満足度」⇒「継続購入・利用意向」⇒「推奨意向」と変わってきました。推奨意向の指標のひとつにNPS(Net Promoter Score)があります。NPSはロイヤルティ・マーケティングの権威、F.フライヘルド の提唱した、顧客との関係性(カスタマー・ロイヤルティ)を測る指標で、あるブランドやサービスを親しい人に勧めたいと思う賞味の割合です。「あなたが○○○(ブランド・サービス)を友人や同僚に勧める可能性はどの位ありますか?」という質問に、0(勧めない)~10(勧める)までの11段階のどこにあたるかを答えてもらいます。
その結果、10~9と答えた集団を推奨者(Promoters)、8~7を中立者(Passives)、6~0 を批判者(Detractors)の3つに分類します。NPSは(推奨者)-(批判者)の割合の差になります。顧客満足度が商品・サービスに対する品質評価であるのに対し、NPSは商品・サービスへの思い入れの深さ(ロイヤルティ)の指標といえます。
認知的不協和理論
消費者の購買行動の後に、どのような心理的な変化が見られるか、についての研究に認知的不協和理論(フェスティンガーによる)があります。
人は常に自分の行動と思考・感情の整合性を保ちたいと思っています。購買行動においては、消費者は自分がその製品を購入した判断・行動を正当化しようとします。マーケターは購買後の顧客に、「あなたの選択は正しかった」と消費者に思わせる戦術の採用が必要になります。
認知的不協和は必ずしも解消するとは限りません。購入した商品・サービスの内容がひどければ「認知的不協和」はバランスを崩します。このネガティブに崩れた状態を「対比」といいます。対比理論では購買前の期待と購買後の成果の差が大きすぎる場合には、その差を一層際立たせるような評価が下される、とされています。
過去3回購買決定・消費プロセスを順に追って紹介してきました。次回からはこの購買決定・消費プロセスと同時並行して起きる情報処理のプロセス(動機付け、知覚、記憶、態度形成など)について紹介していく予定です。