消費者行動に影響を与える要因

消費者行動に影響を与える要因は、コラム第20回の図表1のように、1.環境要因2.個人要因に分類できます。環境要因としては文化、下位文化(サブカルチャー)、社会階層、家族、準拠集団、状況要因などがあります。これらについての説明は図表1にまとめました。

消費者行動に影響を及ぼす外的要因

個人要因としては、デモグラフィック特性の他に、消費者の生活資源(収入や生活程度のことです)、動機付けや関与、知識、態度、パーソナリティ・価値観、ライフスタイルなどがあげられます。性・年齢や収入・教育などのデモグラフィック特性やソシオグラフィック特性が似通った人達が、全く異なる消費行動をとるのは決して珍しいことではありません。デモグラフィック特性やソシオグラフィック特性は、消費者の外面的な特徴であるため、使い勝手が良い反面、「なぜ」消費者がそのような行動を取ったかがわからないため、表面的な理解に終わってしまうことがあります。消費者の内面的な特徴が消費行動に影響を与えている可能性があるということで、サイコグラフィック特性が注目されるのです。サイコグラフィック特性として、本稿ではライフスタイル、価値観及びパーソナリティについて述べたいと思います。

ライフスタイルと消費者行動

ライフスタイルという概念の定義は研究者の間でも一致していないそうですが、「生活課題の解決及び充足の仕方」ということができます。ライフスタイルによって消費者をセグメント分けすれば、それぞれのセグメントに属する消費者の思考や行動をかなり正確に予測できると考えられます。

AIOアプローチ:ライフスタイル分析の代表的手法として、AIOアプローチがあります。このアプローチでは、消費者のライフスタイル特性をActivities(活動=どのようなことに時間を使っているか?)、Interests(関心=どの様なことに興味・関心を持っているか?)、Opinions(意見=政治や社会問題など様々な出来事について、どう思っているか?)の3つの側面で捉えようとするものです。この3つの側面とデモグラフィック特性について質問することで、生活全般、あるいは特定の生活領域や製品カテゴリーに関する消費者のライフスタイルを測定するのです。図表2にAIO分析に含まれる3つの側面とその要素をまとめました。AIOアプローチをフルに用いた調査はなかなか目に触れる機会はないですが、博報堂の「生活定点」の調査票(インターネットで公表されています)がこれに近いのではと思います。

ライフスタイル:AIO

VALS(Values and Lifestyles):VALSは1980年代にSRI(旧スタンフォード研究所)を中心に開発されました。最新版のVALS 2ではサイコグラフィック特性に関する35の質問と4つのデモグラフィック特性による質問で、USの成人消費者を8つのセグメントに分類しています。このVALSを日本市場に適応させたのが日本版 VALSで、日本人消費者を10のセグメントに分類しています。(VALS 2の調査票はこちらを参照ください)

http://www.strategicbusinessinsights.com/vals/surveynew.shtml

日本版VALSは生活における志向性(図の横軸=X軸、保守性、革新、自己表現)と社会の変化に対する態度(図の縦軸=Y軸、ロジャースの革新の普及理論における採用段階に対応させている)をクロスさせた座標に10のセグメントを布置しています。
(参考までですが、クラスター分析で各クラスターと因子得点のマトリックスをコレスポンディング分析にかけるとセグメントの相対的な位置が布置できます。多くの場合、「内向的vs外向的」と「積極・主張・個人vs消極・帰属・集団」のフレームのなかに相対的にうまく収まります。結果、クラスター分析全体の説得力が増します。)

JAPAN-VALS

価値観アプローチ

一般的なライフスタイル調査では行動的変数(AIOの態度ステートメント)によって、個人の特性を測ろうとしますが、価値観アプローチは人の行動よりも、より内面で規定している価値観を測定することで、個人を分類する、という考え方です。価値観とは消費者の態度や行動を決定づける物事の価値についての考え方です。消費者の価値観の構造を知るには、ラダリング法が適しています。ラダリング法では消費者の価値観を中心において、これがブランドや製品の選好や選択に関係してライフスタイルを表現している様子を目に見える形で取り出すことができます。ラダリング法で注意すべき点は上位概念である価値観のレベルをあまり上げすぎないことです。自由、安全、調和といった漠然とした広い概念は、購買パターン全体には影響をあたえるかも知れませんが、カテゴリーの中でのブランドの差別化には繋がりにくいからです。

パーソナリティ

パーソナリティは、「性格、気質、興味、態度、価値観などを含む個人の統合体」であると考えられます(松井剛・西川英彦 編著、「1からの消費者行動」、碩学舎、2016年)。周囲からの刺激に対して、比較的一貫した反応を継続的に示す個人の心理的特性といえます。

人のパーソナリティを説明する上で、もっともポピュラーなものが、「ビッグ・ファイブ(Big Five)」と呼ばれるものです。ビッグ・ファイブでは人間のパーソナリティは次の5つの要因の組み合わせで構成される、としています。

  1. 開放性(Openness):どれだけ開かれているのかを示す特性。知的好奇心の強さ、想像力、美の理解・興味、新しいものへの親和性、遊び心などに関係。
  2. 誠実性(Conscientiousness):まじめさを示す特性で自己統制力、達成への意志の強さ、計画性などに関係。
  3. 外向性(Extraversion):積極的に外の世界へ行動していく志向性を意味する特性で、社交的、活動的、上昇志向、エネルギッシュな傾向を表す。
  4. 協調性(agreeableness):やさしさに近い特性で、利他性、共感性、嘘偽りない態度、控えめといったことが関係。
  5. 情緒不安定性(Neuroticism):敏感さ、不安や緊張の強さを意味する特性。これが高いと感情面・情緒面での不安定さやストレスを感じやすく、逆に低いと情緒が安定している。

パーソナリティは消費者のブランド選択にも影響を与えるといわれています。これはブランドにもパーソナリティがあり、消費者は自分と合致するパーソナリティを選ぶ傾向があるためです。しかしパーソナリティと消費者行動との関係を明らかにしようとした研究は数限りなくありますが、多くの研究において「関連性あり」という結果が発表されている反面、「関係性なし」という研究も多く、一般化された事実を導き出すことは困難なようです。そのひとつの理由として、現実の購買行動では環境・状況要因などパーソナリティ以外の諸要因が影響を及ぼすので、それらのあいだに一義的な関係を見出すことが困難、ということがあるようです。

マーケティングでは、心理学のBig 5より、Jenifer Aakerのブランド・パーソナリティ研究のBig 5が知られていると思いますが、筆者はこの関係についての実証研究やわかりやすく書かれた文献を知りません。参考までに、図表4でAakerのBig 5を紹介します。

ブランドパーソナリティのフレームワーク

ライフスタイルも価値観もパーソナリティも生活全般・購買行動全般における消費行動との関係を明らかにするのは難しいかも知れませんが、製品カテゴリーレベル、ブランドレベルではマーケティング上、アクションが取れる関係性が見出せる、と私は信じています。

この稿で、「消費者行動理論をMRの企画・分析に生かす」は終了です。

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