今回よりステークホルダー満足度調査に関し解説していきたいと思います。ここでは、顧客満足度調査(以下CS調査とします)、従業員満足度調査(以下ES調査)、ミステリーショッパー調査(以下MS)をカバーします。
顧客満足度調査(CS調査)について
CS調査の詳細説明に入る前に、なぜ顧客満足度を測ることが大事なのかと、顧客満足度調査の企画を作成し、分析を進める上で必要となる消費者行動の理論を整理したいと思います。この稿では、「顧客満足度」とは顧客の推奨意向である、と定義します。単なる商品・サービスを利用しての満足度=全体評価や継続購入意向(一昔前のCSといえばこれらを指していました)ではありません。従来の顧客満足度は単に品質評価をあらわしているだけで(=サービスの製品テストのイメージ)、ロイヤルティを示す行動は相関しないことが先達の研究で分かっています。
なぜ、顧客満足度を測ることが大事なのか?
企業の業績向上と継続的成長を支えるのはCSの向上がこれらに繋がっていると考えられるからです。推奨意向が様々な変数の中で、ロイヤルティと最も相関が高いことがわかっています。従って「推奨意向」が企業の成長性を左右する重要な先行指標であると考えられます。
CSの向上は企業の成長を次の4つの側面から支えます。
- 顧客生涯価値(LTV=Life time valueおよびSOW=Share of wallet)
- 顧客紹介価値・・・新規顧客の紹介
- 顧客影響価値・・・口コミなどによるほかの顧客への良い影響
- 顧客知識価値・・・革新や改善のために有益な情報の提供
顧客満足はいつ生じるのか?
顧客満足は商品・サービスを購入・利用した場合、顧客が感じた(知覚)価値が事前に持っていた期待値を上回った場合に生じます。顧客が感じた価値と事前の期待値の差が大きいほど顧客満足は大きくなります。
図表2の「期待一致・不一致モデル」は、商品・サービスを利用した際に感じる(知覚)価値(図表2では成果水準)と事前の期待水準の差のパターンで解釈します。
正の不一致がある場合、特にWowと感動した満足がある場合、顧客がその商品・サービスに感じる満足度はアップします。その場合、当該商品・サービスに対するロイヤリティは向上し、以後その商品・サービスを大して検討することなく、継続的に利用するようになります(ヒューリスティクスの単純化がおこる、といいます)。
一方成果水準が期待水準を下回る場合(負の不一致)、不満が生成されます。不満を持った顧客がその商品・サービスを利用しなくなるだけならまだ良いのですが、その顧客は当該商品・サービスについての悪評をバラまくようになります。顧客満足においてはAISASを考慮にいれなければなりません。
現在のように商品間やサービス間の差別化が弱くなり、顧客の知識・経験が増えてくると、成果水準が一応の満足をもたらすだけでは、顧客の満足度はなかなか上がりません。顧客「満足」から顧客「感動」(Customer Delight)のレベルの満足度が必要です。最近、「顧客経験価値」に注目が集まっている所以でもあります。
私のコラムの19回目にも書きましたが、顧客が一度購入した商品・サービスの再購入を決める際には、期待通りの満足の経験ではなく「具体的にはっきり記憶に残る最高・最低の経験」に左右されます。顧客の記憶には平均的な満足の経験は残らず、商品・サービスに対する知識・記憶は深まりません。ある程度以上(閾値を越える)の顧客感動がないと長期記憶には繋がっていかないのです。
行動経済学の知見からすると(コラムの15回、16回を参照ください)私たちの大脳には情報処理を司る2つのシステムがあり、この2つのモードで私たちは物事を思考し、判断し、選択・決定しています。私たちにとって心地よい経験(即ち顧客満足)はシステム1(速い思考=直感的処理)で処理され、よほどの感動がない限り、記憶はほとんど更新されません。一方悪い経験はシステム2(遅い思考=分析的処理)で処理され、一回の経験でも記憶に残ってしまうのです。少なくとも顧客に悪い経験を与えてはいけません。
また、プロスペクト理論でも悪い経験はそれ以上の結果がもたらされることを証明しています。プロスペクト理論では私たちは「損失回避性」というものを持っていて、同じ規模の利得と損失を比較すると、損失のほうが1.5~2.5倍重大に感じるそうです。
認知的不協和理論
消費者の購買行動の後にどのような心理的な変化が見られるかについての研究に「認知的不協和」理論があります。人は常に自分の行動と思考・感情の整合性を保ちたいと思っています。購買行動において、消費者は商品・サービス購入した自分の判断・行動を正当化しようとします。マーケターは購買直後の顧客に「あなたの選択は正しかった」と思わせる戦術の採用が、特に高額品の場合に必要です。
認知的不協和は必ずしも解消するとは限りません。購入した商品・サービスの内容がひどければ、認知的不協和はバランスを崩します。このネガティブな方向にバランスを崩した状態を「対比」といいます。対比理論では購買前の期待と購買後の成果の差が大きすぎる場合には、その差を一層際立たせるような評価が下される、とされています。
CS調査の分析視点・・・ハーツバーグの2要因理論(動機付け・衛生理論)
CS調査の分析時に役に立つと思われるものに、ハーツバーグの2要因理論があります。その理論は「人間は不快を回避する欲求(衛生要因=ハイジーンファクター)と自己実現を求める欲求(動機付け要因)の2つの欲求を持っている」というものです。
衛生要因とは、それが一定の水準に満たないと不満をおぼえるが、一定の水準を超えても別段の満足を与えない要因。これを満たしても人間は不満足感が減少するだけ。積極的満足感を増加させることはないもの(当たり前品質という言い方もできます)。
動機付け要因とは、この欲求が実現できれば積極的満足感を強化できる。たとえこの欲求を充足できなくても積極的満足感が少し減るだけで、不満足感が増加するわけではないもの(魅力品質という言い方もできます)。各属性と推奨意向あるいは全体評価との関係を見ることによって、どの属性が重要かを判断することができます。 同様の理論に小嶋外広氏のHM理論、狩野紀昭氏の狩野分析法があります。
次回は「CS調査の実際」についてです。