CS調査の実際

CS調査のパラダイムシフト

従来のCS調査では評価の低い部分を発見して、改善していくという考え方が主流であったと思います。しかし顧客満足度を高めるだけでは「新規顧客獲得」、「リピート率向上」には必ずしも繋がらないということで顧客満足度における総合指標は「全体的な満足度」⇒「継続購入・利用意向」⇒「推奨意向」と変わってきているようです。さらに推奨意向も従来型の5ポイントスケール型からNPS(Net Promoter Score)を使うことが増えてきているようです。

2003年、ハーバード・ビジネス・レビューに「The One Number You Need to Grow」(F.ライクヘルド)が掲載されて以来、「NPSは企業が成長するための唯一の数値」と言われるようになりました。NPSが紹介されてからの10年の間に、企業が測るものは顧客満足度から顧客ロイヤルティへとシフトしました。「顧客満足度の測定」から「NPSや顧客ロイヤルティの測定」へとシフトした要因のひとつは、企業の最大の関心事である「収益と成長性」との関連性が単なる顧客満足度では十分に説明できなかったからです。「顧客ロイヤルティ」と「顧客満足度」は同じように思われますが、そうではありません。「ロイヤルティは示しているが満足していない顧客」というケースはまずありえないでしょうが、「満足はしているけれどもロイヤルティを示さない顧客」は十分ありえます。F.ライクヘルドは自動車産業におけるケースでは、満足度90%でありながら、顧客がそのブランドの車を再度購入したのは平均40%であったと報告しています。(満足度がロイヤルティに関係していても、その2つは同じものではない。実務の上では満足度とその上位概念としてのロイヤルティ=NPSの両方を測れば良いのだと筆者は考えています)

NPS(Net Promoter Score)とは・・・

NPSはロイヤルティ・マーケティングの権威、F.フライヘルドの提唱した、顧客との関係性(カスタマー・ロイヤルティ)を測る指標で、あるブランドやサービスを親しい人に薦めたいと思う正味の割合です。「あなたは友人や同僚に、○○○(ブランドやサービスの名前)をどの程度薦めたいと思いますか?」という質問に、0(薦めない)~10(薦める)までの11段階のどこにあたるかを答えてもらいます。

その結果、10~9と答えた集団を推奨者(Promoter)、8~7を中立者(Passive)、6~0を批判者(Detractor)の3つに分類します。NPSは(推奨者)-(批判者)の割合の差になります。顧客満足度が商品・サービスに対する品質評価であるのに対し、NPSは商品・サービスへのロイヤルティの強さの指標といえます。ひとつ付け加えますと、調査でNPSのスコアがマイナスになることは印象的にはよくないのですが、日本の場合高い評価をつける人が少ないことから、NPSのスコアがマイナスになることがままあります(NPSのスコアは業種によっても違います。同業種間の比較が大事です)。EU諸国ではやはり極端な推奨意向をつける人が少ないためNPSは推奨者を10~8、批判者を5~0として計算しているようです。

NPS(Net Promoter Score)とは・・・

なぜNPSなのか?NPS顧客グループの特徴

J.D.パワーの「顧客満足のすべて」(ダイヤモンド社・2006年)から推奨者、中立者(本では「無関心者」となっています)、批判者(本では「刺客」となっています)の特徴をピックアップしました。一言で言うと「批判者」は製品・サービスを批判し、それを購入あるいは使用しないように勧める人達です。一方、「推奨者」は好意的な口コミをしてくれる可能性の高い人達です。消費者の多くが商品情報を集めるのにインターネットやSNSを利用するようになった昨今、コミュニケーションの伝播はAISASでしかも急速であることを考えれば、推奨者を増やし、批判者をミニマイズすると言うNPSの考え方が一層大事になってきていると思います。

NPSの強み、弱みに関してはユーザーエクスペリエンスの定量化の専門家である、ジェフ・サフロのコラムの和訳を参照ください。

https://www.sociomedia.co.jp/6281(NPSとUXについて知っておくべき10の大切なこと)
http://web-tan.forum.impressrd.jp/e/2015/09/17/21065(NPSは役に立たない?よくある批判をUXリサーチ専門家が検証してみた)

NPS:推奨者、無関係者、批判者の特徴

顧客満足度調査のフレームワーク

図表3に典型的なCS調査の調査票の構成を示しました。CS調査の分析においても、この構造を全体として把握することになります。即ち、顧客はニーズを知覚したあと、商品・サービスの検討⇒購買⇒利用(カスタマー・ジャーニー)にあたり様々なタッチポイントを経験し(カスタマー・エクスペリエンス=UXと言い換えることができます)それごとに評価します。たとえ評価が無意識のうちになされていてもです。そしてそのタッチポイントが自社の業務プロセスと対応している筈です。

個々のタッチポイントにおける経験の満足度(調査票の上では属性評価)がその上位概念であるプロセス別の満足度と知覚され、プロセス別の満足度が総合され、全体的な満足度に統合され、さらに継続購入のロイヤルティとなり、推奨意向・NPSとなるフレームワークとして記述することができます。さらに重回帰分析や構造方程式(SEM)でフレームワークのパスを数値で表現することができ、推奨意向・NPSにどのプロセス・属性がどの程度寄与しているかを数値化できます。

なお、属性別の満足度の評価を「満足…不満」のスケールを使うか、質問文を「在庫が豊富」のようにして「そう思う/当てはまる…そうは思わない/当てはまらない」のスケールを使うときがありますが、「満足…不満」は対象者にとってあまり印象に残らなかった事柄に関しては答えにくいことがあるようです。

また、私がお勧めしているのが「イメージ」を調査票に組み込むことです。カスタマー・エクスペリエンスがより重要視されるようになれば、必須の項目になると考えています(実際にイメージの推奨度に対する寄与度は高いことが多いです)。イメージを扱うようになれば「そう思う/当てはまる」を使うほうが調査票のまとまりが良いと思います。構造方程式(SEM)を使えば、顕在変数である「属性」の上位概念としてモデルを考えることもできます。

顧客満足度調査・調査票の構成

CS調査でよく使われる分析法に「CSポートフォリオ」(図表4)があります。これは図のように横軸にプロセス・属性の推奨意向・NPSへの寄与度(相関係数や重回帰係数を使います)、あるいは別に質問している「重要度」をとり、縦軸にはプロセス・属性の評価をとり、プロセス・属性をプロットします。その上で4象限にわけ、第4象限(推奨意向・NPSへの寄与度は高いが、パフォーマンスが低いもの)にプロットされたプロセス・属性の改善を優先して検討します。
ここで注意したいのは次の点です。

  1. 重回帰分析を行う際、いわゆる「マルチコ」が起きない処理をほどこす
  2. 横軸に属性の重要度を質問した結果の「重要度」を使うか、寄与度(相関係数や重回帰係数)を使うか(筆者は単純な「重要度」はまず使いません。調査票にも入れません)
  3. 横軸の寄与度をカテゴリー全体のものを使うか、当該商品・サービスのものを使うか(筆者はカテゴリー全体を使うことが多いです)
分析:CSポートフォリオからアクションを示唆

CS調査をうまく進めるには・・・

CS調査はその結果が自社の各部門の業務の改善のための具体的な施策が実行されて、はじめて機能します。CS調査が一般的なマーケティング・リサーチ(MR)と違うところはMRに比べ、調査結果を活用する部門が非常に多いことです。CS調査を社内で担当するのは多くの場合、MRに関わる部門ではなく、そのための「プロジェクトチーム」がCS調査の実務のプロセスを担うことが多いようです。MR部門のように統計や解析・分析のスキルをチームの皆が必ずしも持っているわけではありません。ですからCS調査の結果をうけて、社内の各部門に自発的な改善・取り組みを進めてもらうことが必要になります。CS調査は「何が、あるいはどこがどのように問題なのか、改善の優先順位はどうすれば良いか」までは教えてくれます。しかしそれを解決する「打ち手」までは教えてくれません。(それは1つの問題=Whatを解決=する施策=Howはいくつか考えられるからです。)調査からいくつか打ち手を示唆することは可能かもしれませんがそれがすべてとは限りません。ミスリードの可能性が残ります。調査会社の担当者もプロジェクトチームも各部門の詳しい業務内容やリソースまでは把握できていないからです。CSのPDCAを回すのは自分の部門ですので自分の部門で施策は考えないといけません(調査会社としてお勧めなのはワークショップ的なアイデア出しのセッションです)。

CS調査を利用する側は必ずしも結果の活用に前向きとはならないようです。とくに導入時に抵抗感が強いようです。どのような抵抗感があるかを整理すると:

  • 自分の業務について、それに詳しくない第三者から評価されることに対する心理的な抵抗感。それが個人の評価に繋がるのではないかという不安
  • 他部門、同様な部門の間でダイレクトに評価が比較されることの不安(負けたら困る)
  • 調査結果から具体的な示唆が見えない⇒何をどうすべきかが優先順位がみえない。具体的な打ち手が見えない。打ち手をどのように考えたら出したら良いかわからない。考えた打ち手が正しいかどうか、どの打ち手がよいのかわからない
  • 調査結果の数字の見方・読み方がわからない(重回帰分析とかSEMとか、潜在変数とか寄与度の数値とか、何がなんだかわからない)
  • 特に(上級管理職の方)業績とCSは関係ない(業績がよければCSは低くても問題ない)

以上の抵抗感を解消するには、会社としてのコミットメント(CS担当役員、CS推進室の設置、CSをKPIに組み込むなど)が非常に重要です。
一方「プロジェクトチーム」や調査会社の実務レベルでは、 CS調査のプロ・コンを十分理解し、社内各部に配慮した調査設計、実施、分析が必要です。

次回はCS調査と対応するES調査について、です。

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