需要予測に迫る!!
コンセプト・プロダクトテストには診断情報が豊富に含まれています。分析で特に注意する点は次のとおりです。
(1)コンセプトの購入意向と製品試用後の購入意向のシナジーがキー
コンセプトの購入意向と製品試用後の購入意向の大きさを集計ベースで単純に比べるだけでは不十分です。コンセプトレベルで購入意向のあった人が、製品試用後にどの位「歩留まるか?」、特にトップボックスの歩留まりの大きさが重要です。トライアルしない人はリピートには結びつかないからです。そのために対象者個々人の購入意向のシフトに注目します。集計ベースでは分析しきれません。(発売後およそ1年間の売り上げのうち、約8割はリピートから来るといわれています)
(2)4象限分析から、改善点や発売時のマーケティング施策を見出す
C+Pテストの結果、何の修正もなく新製品が発売されるのは稀です。ターゲットにとって、一層魅力的な商品を作るために、下記のようなC-Pのシナジーの分析が重要です。対象者を4つの層に分けて主要調査項目とクロスして施策を考えます。
これにより、コンセプトやプロダクトの購入意向をドライブするものは何か?(このドライバーが広告開発時にUSP=Unique Selling Propositionの候補になります)、コンセプトをどう改良すればトライアルが増えるか?プロダクトをどう改良すればリピートが増えるか?の示唆を得ることが出来ます。
さらに、調査項目にふだん接触しているメディアや購入店を入れておけば、発売時の打ち手に関する情報も得られます。
(3)ビジネスソースを同定する
発売される新製品の8割程度が、ラインエクステンションかカテゴリーエクステンションといわれています。新製品で得られる売り上げがどこから来るか?カニバリがどの程度あるか?あるいは既存品を含めてトータルの売り上げがどの程度伸びるか?に関する情報は次のように得ることが出来ます。
このためによくある質問は、コンセプトテストの実態把握のパートで、例えば銘柄写真を見せて、「シャンプーの最近10回の購入を考えたとき、どの銘柄を何回購入したか?」を質問しておき、プロダクトテスト時に、「今後10回のシャンプーの購入を考えたとき、(新製品を含めて)どの銘柄を何回購入するか?」を質問します。プロダクトテストで得られた新製品の「回数」と他の製品がPreからPostで減った「回数」は一致するはずですから、新製品の回数がどの銘柄からきたのか、が分かります。
また製品ラインとしての需要増、既存品のカニバリも推定できます。(ただし100%の銘柄認知度、100%の配荷率の条件下です)
(4)調査結果から販売量を予測する
本格的な需要予測は、調査結果といくつかのマーケティング戦略のシナリオ(広告投入量、配荷率、サンプリングの個数など)を考慮した「需要予測モデル」に譲るとして調査結果から販売量を予測する方法を紹介します。
需要予測の式は下図のように非常に単純です。調査結果から、トライアル率とリピート率を予測するのはそれほど難しくありませんが、リピートする人の購入量を予測するのが大変難しいです。リピーターの購入頻度・購入量は調査結果や消費者パネルのデータ、その他のデータ(たとえばアルコール飲料は公的統計がある)などから予測します。
また母集団の定義とその値を確実に把握しておく必要があります。(母集団を絞れば購入意向は高くなるかもしれませんが、購入する人の絶対値は小さくなります)
トライアル率の予測はコンセプトテストの購入意向を使います。例えば、トップボックスの%×0.5+セカンドボックスの%×0.2というように0.5とか0.2といった係数を最適化します。最適化の目標値はコンセプトテストの一般情報の中に潜んでいます。普通、一般情報で銘柄認知度、購入経験率(あるいは最近1年間の購入率)、現在使用率などを質問しているはずですが、これらの変数の間には下の図にあるような関係があります。銘柄認知度と購入経験率との関係を見ると認知度が70%ぐらいまでは一次式(直線)で表現できます。この直線の認知度が100%になったときの購入経験率と上の購入意向を使った式が一致するよう、係数の最適化を図ります。トライアルとリピートの関係も購入経験率と現在使用のチャートから求めることが出来ます。もっと精緻化を求めるなら、他の質問(たとえば「目新しさ」)を加味してもかまいません。
ちなみにこの銘柄認知率と購入経験の関係はFMCG(fast moving consumer goods) でしたらどのカテゴリーでも同様のライン(関係)が得られます。カテゴリーによってこの関係は運命づけられている、といって良いかもしれません。(このラインは歴史の古いカテゴリー、あるいは競争銘柄の多いカテゴリーでは下振れします。この逆もあります。また機能性商品やプレミアム商品はこのラインの2分の1ぐらいのところにポジショニングされます。)
銘柄の認知度は発売後の配荷率と広告投入量(及び広告のインパクト)、サンプリングの量(そして最近ではSNSのインパクト)で決まります。これらの要因をしっかりコントロールすることにより、初めて需要予測が可能になります。
筆者は前回紹介した3つのモデルを使った経験がありますが、需要予測は調査結果で得られた数字をモデルに当てはめれば、それだけで正しい答えが出てくるわけではありません。リサーチャーは恣意を排して“リーズナブルな”「パラメータ」を探し出し、リーズナブルな結果を追い求めるのです。シャンプーや洗剤のような使用頻度がほぼ決まっているものの予測は大体当たりますが、低価格の飲料(缶コーヒーなど)やガム・キャンディなどは予測が大変難しいカテゴリーです。
この3者とも予測の精度を発表していますが、予測の数字が実際の販売量に対してプラスマイナス20%以内に収まったケースは8割を越えているそうです(±10%に収まるケースは約6割)。この数字はあまり高くないように感じるかも知れませんが、サンプルサイズ200のとき、30%の購入意向の標本誤差は30%±6%ですから、予測の精度として20%の違いは決して低くないのです。