第15回

リサーチ企画の構成要素とリサーチ営業、
企画営業推進のあり方
-リサーチ業界の魅力を高めるために-

リサーチ企画の構成要素とリサーチ営業、企画営業推進のあり方-リサーチ業界の魅力を高めるために-執筆 : 田中 庸介

リサーチの企画要素は下図1のとおりです。“全体像から入り、部分に降りる”、“総論から各論へ”という考え方がポイントです。調査の設計(調査目的と調査課題、調査項目など)は企画の後半に登場します。

調査の設計に至るには、「与件事項(要素1)」を受けて(クライアントから頂戴したものから整理します。足りないと思えば2次データで補強します)、「リサーチ企画推進のための全体設計(要素2)」を俯瞰的に図示し、自身の「課題認識(要素3)」をクライアントに投げかけます。これらの要素1~3をよすがにし「調査アプローチ(要素4)」などの各論(後半要素4~6)の掘り下げを行いますが、特に前半の要素2,3ではリサーチャー独自の考えや、感覚の冴えを表出することに努めます。これが「私はこう思うので、もっとこうしたほうがよいのではないか?」という調査企画・設計につながります。その際、マーケティングのフレームワークを活用することもあれば、そのフレームワークを疑い、誰からの借り物でない独自の見方を書くときもあります。フレームワークを疑うのは、それ自身がコンテクスト(その理論等が生まれた背景・文脈)を持つものであり、その仮定が変化すると理論自体の意味や意義も変化するからです。お客さまが変われば(進化すれば)、我々マーケティング・パーソンも変わるべきだ(進化しなければいけない)ということと同義であり、与えられた調査目的や調査課題に単純に反応した調査設計を記述することが我々リサーチャーのあるべき姿だと思ってはいけません。

ですので、自身で発酵させた物の考え方や解釈(意味づけ)がクライアントの新しい認識を生み出し、それがまた新たな解釈を創造するということを意識して「課題認識:仮説や推進検討課題」を書くことに注力すべきです。そして、この段階で企画要素の後半となる要素4以降の大方の青写真はできてしまいます。実際は行きつ戻りつ収斂させますが、「調査アプローチ(要素4)」や「調査設計(要素5)」などは誰が書いても、およそ同じようなものになります。しかしこの「課題認識(要素3)」に関しては、広告作品の制作の心得と似ており「時代の精神を反映したような広告作品を作ろうと思えば、吉本のお笑いの質、東京六本木の風俗、最近の若者のはやりの遊びや最近のヒット映画から、日本の経済状況、世界の政治的うねりに至るまで、ありとあらゆる動きがそのための「データになりうる可能性」を秘めている。」(石井淳蔵,1993年,マーケティングの神話,日本経済新聞社)というようにリサーチ企画において最もクリエイティブな部分のひとつではないかと思います。そして独自性(他にはない魅力)が求められるマーケティング・パーソンとしての勝負所となります。

リサーチ企画の7つの要素

一方、“確たる事前の仮説があるのでリサーチニーズが発生した”というケースは実は稀です。また「調査アプローチ(要素4)」に重きを置いて企画を書く場合や「アウトプットイメージと分析アプローチ(要素6)」を厚めに書くといった“分析偏重型のリサーチ企画”にすることがあり、そのアプローチを受け「課題認識(要素3)」が生まれるということもあります。はじめの企画書を「リサーチ推進企画書Vol.1」、次に「Vol.2」というように“推進のための企画(推進企画書)”という考え方が出てきます。プロジェクトが大きいほど(長いほど)、リサーチの川上にいればいるほどクライアントの課題認識もぼんやりとしているケースも多く、より推進企画(推進力)が重視されます。「リサーチ企画を書き、その結果受注したから終わり」ではなく、そこからクライアントの関心・関与レベルは逆に上がっていきます。「受注後に顧客と売り手供給企業との間に相互関心の差が生まれる」これをリレーションギャップといい、この管理に不手際があるとその後の両者の持続的な関係構築に大きな脅威になります。リサーチは無形財でありますから受注してからの動きのほうが重要であることは言うまでもありません。

“分析偏重型のリサーチ企画”では課題に応じて多変量解析(下図2)を提案し、その分析アプローチを意識的に厚く書くときがあります。下図2のこれらの多変量解析以外では、コレスポンデンス分析やMDS、コンジョイント分析、SEMなどが挙げられますし、因子得点からクラスター分析を行い、その因子とクラスター間の関係をコレスポンデンス分析でマップ化(可視化)するといった分析アプローチもあります。また、因子分析で直行回転(バリマックス回転)で因子を抽出し、因子間相関を「0」として(※)、その因子を重回帰分析にかければマルチコ(multicollinearity)を気にせず分析することができます。このような組み合わせは多変量解析のアプローチとしてオーソドックスなものであり、ある程度型が決まっているため、誰が企画しても同じようなものになります。
※因子間の相関がないということはあまり考えられないので斜交回転(プロマックス回転)を使うことが多いです。因子をマッピングの軸に使う場合はその限りではありません

リサーチ企画を書くときに最も重要な能力だと思うのは、量的な分析能力よりも相対的に定性情報を捉える定性能力のほうにあります。リサーチの仕事を長く続けていると10年間同じ会社に勤め、一日8時間働き、同じ場所で同じものを飲食することが多くなります。長くいればいるほど、周囲とどんどん同質化していき、企画の発想も同じようになりがちです。人間は同じ物の考え方や深さを共有できる人間と付き合う傾向にあるからです。ですので、新入社員や若いリサーチ営業スタッフなど自身よりも平衡感覚のある、本来的に自分よりもはるかに真っ当な人間に所感を求めることが往々にしてあります。そこから気づきを得ることが多いのも事実であり、どのような人(お客さまも含みます)と付き合っているか、周囲にいるかが競争力の源泉のひとつになります。これはヒト・モノ・カネ・情報という経営資源で最も重要なものは何かを考えれば明らかです。

相関性検証法の全体図(多変量解析の一部)

リサーチ営業、企画営業推進のあり方-リサーチのおもしろさ

リサーチのおもしろさとは、何か。まがりなりにもリサーチに関わり15年になりますがときおり考え込むときがあります。製品開発のモノ作りに携わるリサーチ、広告コミュニケーションコンセプトの方向性を占うリサーチなど、そのリサーチ領域は多岐に渡ります。ですが、所詮は人が創ったモノの上に付加価値を積み上げていく作業とも言えます。“モノ作り(に携わる)”という意味では自身の動機や必然はないわけで、当たり前ですがリサーチはモノ作りとは違いますし、心血注いで仕事をしても形としては残らない(やや言い過ぎですが。情報とインサイトは残ります)。では何がおもしろいのか。

リサーチをやっていると生活者やクライアントを含めその本音が見える、“真実”が見える瞬間があります。真実とは何かを定義することは極めて困難ですが『なるほど、おもしろい』と思うことが多々あります。たとえば、前回コラム(第11回自立思考型リサーチャーへの挑戦)のコンビニの例で挙げました「牛乳パックがレジ内のフライヤーから遠い場所に置かれていることがなぜ多いのか?」については、その理由は牛乳パックがフライヤーの油・臭気を吸ってしまい、それを購入したお客さまからのクレームが起こらないようにするためです。「コンビニのアイス用の冷蔵庫でフタがないものがある」のは、その方が商品を手にとって見てくれるようになるからでして、結果、余分に電気代を支払ってもその方が売れるから開けているのです。「自動ドアと手動ドアがある」のは手動ドアの場合、自動ドアと比べて余分に外の空気が入って冷暖房効果が低下しないようにするためです(店前の歩行者交通量が多い場合が好例です)。その方が電気代が安くなるからですが、百貨店の入り口に風除室がある主な理由も同じです(外気の流入を防ぐのでゴミなどが入ってこなくなるため、その掃除回数や人件費の削減にもつながります)。

マーケティング及びマーケティング・リサーチの勉強をしているときもそうです。先ほど挙げました「マーケティングの神話(石井,1993)」では、「シャネルの5番」の「カトリーヌ・ドヌーブ」と「ベイブ(アメリカの大衆ブランドで1976年発表の香水)」の「マーゴ・ヘミングウェイ」を挙げ、彼女たちが何者かを知っている者だけがそれぞれの香りのイメージとその違いを識別できるといいます。前者はクラシックなイメージで、後者は機知に富んだ大胆な女性の美しさのイメージです。消費者は、このような人為的な製品のイメージを含む“製品の文化的意味をも消費”しているのだと述べています。『なるほど、よくわかる』と思います。

「確率思考の戦略論(森岡毅,2016)」では「人はなぜテーマパークに行くのか?」という問いに対して「人体の生理現象の中にテーマパーク来場と相関する何かがある」と着想し、基礎代謝量、血圧、心拍数などのあらゆる変化とその関係性を分析した結果、男性ホルモンの「テストステロン」の年齢別分泌量と来場者の年齢別分布の強い相関関係を発見したといいます。テストステロンは行動の活発化や生殖行動などに関係するホルモンであり、人間の本能が「刺激」や「異性との出会い」を求めてテーマパークに来ているのかもしれないとしています。『おお、なるほどおもしろい』です。

また同著で、毎年ある交差点での交通事故の発生件数はほぼ一定であり、シャンプーが売れる量も全国でほぼ一定であるのは、それらの確率が「ポアソン分布」(平均発生率が長期的に見た場合一定であるある事象のある一定期間(単位期間)の分布:別名少数の法則)に従っているからだとしています。そして消費者個人の購買選択も袋からランダムに赤球と白球を取り出す確率試行と同じであり、人生の選択もその選択肢にぶら下がっている確率分布に支配されているといいます。だとすると、昔流行りましたがベストプラクティスにも普遍的なものがあるのかと思ってしまいます。ですが「セブン-イレブンには、陳列棚に広いフェイスをとれば単品で500枚も売れる魚フライがあるが、これを、人気があるから売れるだろうと、陳列幅を減らすと、100枚も売れなかったりする(鈴木 2013,p.160)」(栗木契,Marketing Journal 2018 SPRING 148,p.9)というように、「マーケティング・リサーチがとらえようとしている顧客の特定の心理や行動が生じる確率の分布は、企業の取り組み次第で変わってしまう」といいます。つまり、その時々の市場に適応する必要があり、企業活動によって市場をつくりかえることができるというわけです。『ふむ、よかった(チャンスはある)』と思います。

これら以外にも真実の瞬間はたくさんあり、ここで書けるものと書けないものがありますが、事実のつながりから真実を見ようとする姿勢、熱を社内外双方に感じられるからこそリサーチという職業を続けられるのだと思います。リサーチのおもしろさは一様ではありませんが、稚拙な表現で1つ書くとすると『どうせ同じ人生なら、いろいろな真実を見たい、見ることができる』ということではないかと思います(一見バカっぽく聞こえますが少なくとも主体性があるということが大切だと思います)。

したがって、リサーチ営業は案件の仕様を受け、調査アプローチを考え、質問数とサンプル数を検討し見積もりを出すということに留まってはいけません。前述したリサーチ企画のすべての要素を考え、真実を求めアウトプットすることが求められます。それが企画営業推進であり、会社がかけたコストをお客さまの価値に直接転嫁できるのは営業(営業機能)だけなのです。それは会社にとって最も重要な職務であり、案件の推進をリードし具現化する立場にあります。小難しい多変量解析の分析作業やリサーチ企画のライティングはリサーチャーとの分業でもよく、しかしその分析アプローチで何ができるのか/明らかにできるか/最低限の作法などは知っていなければなりません。リサーチャーもデスクにしがみついているのではなく、営業スタッフとともにクライアント・市場・現場に出てこそ、今まで思いつかなかったアイデア・発想が得られるのですから企画営業推進という職務の機能を果たさなければなりません。そして業界に長くいればいるほど、ヒトは歳を取り、勘は鈍り、体験してみないと分からない(ex.原宿のレインボーチーズサンドが流行る理由など)、実感として知るしかないということが多くなります。リサーチという仕事でも現場に出るということは初歩的なスキルでありますが、経験を積むうちに初心を忘れ、周囲がつくりあげた常識を鵜呑みにしてしまうことが多くなります。また『この課題はこういうアプローチであれば、ここまで出る。これ以上深く入り込むと解はでないだろう』などと経験から裏打ちされた範囲(≒見通しの決め打ち、安全牌etc.)で留まることが起こりえます。これらはある種の「利用可能性ヒューリスティック」(「ファスト&スロー」ダニエル・カーマン 著,2012年,村井章子 著・訳, 早川書房)であり、「手近な例には要注意」なのです。

2000年頃から急成長を遂げたインターネットリサーチ会社は、リサーチを安価にしその裾野を広げました。その需要に対応するため縦割機能を中心とした組織構造のもとで、作業の“効率化”と“標準化”に傾注しました。しかし、世界的なIT革命から20年が経とうとしている今でも、その営業部隊は販売することに注力し、リサーチャー部隊はレポート・チャートを作ることに注力しています。クライアントのメーカーがICTとデザイン思考を強化し、アジャイル型開発手法やリーンスタートアップを取り入れ、エフェクチュエーションの思考様式に動き出している今でも、リサーチ会社側の組織構造はかわっておらず、縦割で部内の部分最適で動く傾向が強いままです。営業が最も多くの重要情報を感知・吸収する機能だということに異論はないでしょうが、企画営業推進は他人任せといった場合、どうやってお客さまの課題解決に寄与することができるのでしょうか。“私の能力では課題解決に寄与することは難しいので、データをサプライします”という割りきりのほうが潔いと思いますが(この場合の事業ドメインはデータサプライですが)、企画営業推進をせずとも、事業が回る仕組みが確立されたこと自体がリサーチ業界のデファクトスタンダードではないはずです。リサーチはサーベイ(測定)という狭義のものではありません。“真実を追究すること”がリサーチのおもろしさの源泉であり、リサーチを商売にしている上で必要な感覚であり、そう感じられることが必須の要件なのです。

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