平成エトセトラ執筆 : 田中 庸介

平成最後の春、東京高円寺の住宅街にあるお鮨屋さんに連れていっていただきました。10坪程度のL字カウンター8席で、コース2種類のみ、しっかり食べて飲んで一人当たり1.5~2.0万円弱(13~14品)というお店です(大将と女将さんのお二人で切り盛りしておられます)。

『じっとしている鮨はうまいなぁ』と思いながら、他のお客さまと大将の会話を聞いていますと、どうやら高円寺に移転して2年目で、そのお客さまは自身の知り合いの「Facebook」の写真(お鮨)を見て「これはもしや?」と思い、移転後のこのお店に駆け付けたということでした。大将は「FacebookやTwitterがあるから(この場所でも)やっていける」とおっしゃっていました。例えば、Twitterでその日の仕入れの「津軽海峡の本鮪などを写真付きで投稿」されたり、「築地市場が豊洲に移転してから仕入れに時間がかかるため営業時間を変更します」といったアナウンスや「今月のお休みはこの日になります」などのコミュニケーションをされたりしています。その他のお客さまも「私もTwitterの投稿で知った」とおっしゃいます。

大将は築地周辺で30年間研鑽し、独立開店したとのこと。お鮨のクオリティはいうまでもなく一級品、時間と手間の結晶しか提供されません。齢50後半、酸いも甘いも噛み分けた御年でした。お店の場所もまた良く、瓶ビールは黒ラベルのラガービール赤星(わかってますね、大将)。私もいつの間にか大将に魅了され、大将との会話を楽しんでおりました。

『どうしてこの立地で開店しようと思われたのですか?』『プロとアマの違いはなんですか?』など一見さんが聴くには忍びないことも明け透けに聞いてしまったのですが、大将は「どんな体調の時でも(味が)ブレないこと」だと真摯に応えてくれました。更に「どれだけいい仕入れをしても慢心しない」「老いた味覚のブレを技術でカバーする」「仕入れ先にこいつの店にこのマグロを卸してやろうと思ってもらえるまで無理をしても仕入れを減らさない(舐められるといい魚がまわってこない)」「この先5年で天然のいいホタテ貝は間違いなく日本人は食べられなくなるだろう」云々、プロたる大将の話を聞きながら「チェーン店とは経営の仕方が違うが、そもそも大将は生き方そのものが違う」「やはり異業種のプロの話は勉強になるなぁ」「個人単位の商売の在り方にカッコよさを感じる私ではあるけれど、自分は会社の勤め人。いまより大きく儲けて社会に還元しないといけない。だとすると、自分は今後どう生きるべきなのか」などと、平成最後の春、様々な思いを馳せておりました。

“Goodbye, Japan Inc.“

平成元年(昭和64年)(図表1)は竹下登内閣のもと「日本初の消費税(3%)」(1989年4月1日~)が導入された年です。竹下氏のモットーは「汗は自分でかきましょう。手柄は他人にあげましょう」だそうで、だからこそ小渕官房長官があの「平成」の発表を行ったのだといいます。そしてこの年が“バブル経済の絶頂期”でした。日本の一人あたりの名目GDP(国内総生産)は世界第4位、日経平均株価は最高値3万8,915円(38,915円87銭)の値をはじき出しました。そしてこれをピークに日経平均株価は下落に転じていきます。世界の上場企業の株式時価総額ランキングは上位30社のうち21社を日本企業が占め、1位「NTT(通信)」(1,639億ドル)は、2位「日本興行銀行」716億円の2.3倍、外資トップ「IBM(IT)」(6位:647億ドル)の2.5倍もの差をつけていました。株式時価総額はその企業の将来企業価値の合計ですから、日本経済は今後も成長を続けるだろうと信じられていた時代だったのです。

翌、平成2年(1990年)に「イラクによるクウェート侵攻」があり、これをきっかけに「湾岸戦争」が平成3年(1991年)に始まります。平成3年は日本でバブル経済の崩壊が始まった年でもあり、ここから“失われた20年”と称される日本経済の長期停滞・低迷期に入っていきます。平成4年(1992年)は「就職氷河期」と呼ばれ、平成5年(1993年)に「Jリーグ発足」がするも、平成6年(1994年)「松本サリン事件」、平成7年(1995年)「地下鉄サリン事件」、そして「阪神・淡路大震災」と立て続けに事件や災害が発生しました。私は関西出身ですので、阪急電車の西宮北口駅から線路を歩き神戸に物資を届ける方々や、カメラを持ち被災地神戸を見に行く一般の方々の姿を複雑な気持ちで見ていたのを思い出します。他方、平成7年は“Windows元年”の年でもあり、ニュースでは「Microsoft Windows 95」を手に入れるための東京での行列が報じられておりました。そして翌平成8年(1996年)、米国ヤフーとソフトバンクの合弁会社「Yahoo! JAPAN」が設立されました。

平成の主な出来事

ここで図表2を見てください。若い方はこれが何だかわからないかもしれません。これは“数字の組み合わせで文字を打つ”「ポケットベル(通称:ポケベル)」の「日本語対応の入力変換表」です。例えば「1112324493」は・・・・・・そうです「愛してる(アイシテル)」と読みます。“2タッチ方式”と呼ばれるもので、これは画期的な方式でした。それまでは「114106」が「愛してる」だったのですが、「1=I」「4=し」「10=て」「6=る」と読まなくてはならない!最後の「6=る」ははっきり言ってムリやりでした。しかし平成8年にはその契約者が1,000万人を超えピークに達しました。いまの「LINE」とは違い、メッセージ暗号文は送っても受信したかどうかの確認はできません。携帯電話はまだ普及していなかったので、授業の休憩時間に公衆電話から2タッチ入力をするために小銭を握りしめた学生が列をなす時代でした。

ポケベル入力変換表

平成9年(1997年)「山一證券が廃業」し、”Goodbye, Japan Inc.“(米紙ワシントン・ポスト社説)と”日本株式会社”の終焉が報じられました。そして携帯電話やPHSがビジネスマンだけではなく学生へと普及しはじめた平成11年(1999年)に、NTTドコモから、携帯電話でWebページが閲覧できる“世界初の接続サービス”「i-mode(iモード)」が開始されます。

携帯端末の進化も激しく、携帯情報端末と呼ばれた「PDA」(平成9年:1997年)や、なんと「腕時計型PHS」 (平成15年:2003年)や「Windows連携PHS」(平成17年:2005年)が発売されていました。平成16年(2004年)にはソフトバンクが「日本テレコン」を買収し通信事業へ参入、同年「YouTube」が日本でサービスを提供し始めます。平成18年(2006年)、ソフトバンクは1兆7,150億円で英国ボーダフォン日本法人を買収し移動通信事業にも本格参入します。そして平成20年(2008年)、とうとう「iPhone(3G)」が日本に上陸。ソフトバンクが独占販売権を獲得しており、表参道店には発売初日に約1キロの行列ができたといいます。さらにこの年は「Twitter」や「Facebook」の日本語版が開始され、平成23年(2011年)にはついに「LINE」もスタートしました。

「iPhone」が出現する前の日本の携帯電話は、“着メロ(音楽のDL)”、“写メール”、“ワンセグ”、“防水機能”、“絵文字”などの機能充実を目指したいわゆる「ガラケー」と呼ばれるガラパゴス携帯が主で、そのモノづくりの発想の中心には、常に日本がありました。しかし日本経済の潮目が2000年頃から変わります。日本の家庭用電気機器の輸入額が輸出額を上回り、グローバルでは外国家電メーカーのほうが売れていきました(日本の技術を学び・体得し自走しはじめました)。ただ日本の家電売り場だけを見ているとこれがわからない、携帯だけでなく家電もガラパゴス化してしまっていたのです。

では、なぜ日本メーカーのモノづくりガラパゴス化に陥ってしまったのでしょうか?

技術中心主義のアンチテーゼでしょうか、日本でもデザイン志向が流行った時期がありましたが、ポケベルやi-mode、着メロ、写メール、絵文字などの成功体験により、近視眼的な「モノづくり・マーケティング(売れるものをつくるというより、どうやって作ったものを売るかのマーケティング)」になったのは、複数要因が考えられますが、中でも組織的要因と文化的要因が大きいのではないかと私は考えています。“日本株式会社”が稼ぎ続けていた時代の“あるある”ですが、現場で活躍した人ほど早く昇進し、現場で培った職業的感性を活かせる場から離れてしまう状況や、はたまた“ハイポ(High-Performance People”という名のもと、色々な経験を積めと自分の適性と必要な素養が違う部署を転々とするということが行われていました。これを例えるなら“サッカーのDFで活躍した名選手がいきなりGKになる”や“ピッチャーで成績がよかっただけでコーチも経ずに監督になる”といった、スポーツの世界ではほぼ考えにくいことが、通常の人事施策に組み込まれていたのです。このような人事施策は、時に会社の意思決定を近視眼的にします。なぜなら現場での成績とはアドホックな成功体験であり、どちらかといえば量的評価であり、短期売上である場合が多く、そこに中・長期的な見通しは多くありません。そして、短期的な目標がパワーを持ちはじめると “顧客不在のマーケティング”に陥りやすくなるのです。例えば、競合他社がXという新製品を出したので、Yという類似品を出す。競合からα(アルファ)という製品が出る前に自社はβ(ベータ)を出す。まさに“顧客不在”です。

スティーブ・ジョブズの名言のひとつに「美しい女性を口説こうと思った時、ライバルの男がバラの花を10本贈ったら、君は15本贈るかい?」というものがあります。これは差別化の方法の1つではありますが、決して顧客に立脚した本質的な差別化ではありません。そして「そう思った時点で君の負けだ。その女性が本当に何を望んでいるのかを見極めることが重要なんだ」なのです。顧客を見ていれば、バラではないものを贈るという顧客起点の独自性に着想が移るのですが、顧客以外を見てばかりいるために“顧客不在のマーケティング”になってしまい、結局非常に狭い世界、短期的な視点の発想となります。“日本株式会社”がガラパゴス化(外部・顧客から隔離された環境での進化)に陥った組織的要因はここにあるのではないでしょうか。

この組織的要因だけではなく、“ガラパゴス化”はモノづくりを得意としていた時代の日本企業の姿勢、つまり文化的要因も大きかったように思えます。日本のIT化はゼロベース思考の新規事業を創造するものではなく、主に既存技術や製造ノウハウを強化することに用いられたといわれていますが、IT革命で乗り遅れた日本を後目に平成30年(2018年)の世界の上場企業株式時価総額ランキング1位が「アップル(9,269億ドル)」、2位「アマゾン(7,778億ドル)」、3位「グーグル(アルファベット)(7,664億ドル)」、4位「マイクロソフト(7,506億ドル)」、5位「フェイスブック(5,415億ドル)」、6位「アリババ(4,994億ドル)」となりました。そして平成元年(1989年)の上位30社以内にあった日本企業はすべていなくなり、現在は米国のGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)、中国のBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)が主役的存在に踊り出ています。これらの業種はすべて「IT」です。日本が衰退したというよりも時代が変わったと見るほうが“正”でしょうし、事実、日本の名目GDPは平成の30年間で上がっています。がしかし、海外はそれ以上に成長していたのです。

“おもしろきこともなき世をおもしろく すみなしものは心なりけり”
上の句-高杉晋作 下の句-野村望東尼

今後、30年にも渡って日本を覆っていた“平成”という殻を破り「令和」という新しい時代に、日本が再度競争力を復活させるにはどうすればよいのでしょうか。ヒントはいくつか見えていると思います。その一つがシングルソース化されたビッグデータとAI等のデータ利活用でしょう。オフラインの購買データとEC等のオンライン購買行動データはもとより、スマホによる位置情報や、キャッシュレス化時代での金融情報などがリアルタイムでオンされていきます。そこに第3次ブームと呼ばれる「AI(人工知能)」と「5G(第5世代移動通信システム)」が具現化されていきます。「5G」は「高速大容量通信」や「低遅延・超高信頼性」に注目されがちですが「端末同時多数接続」がIoT(Internet of Things)を強く推進させることは間違いないでしょう。あと必要なものはシングルソースの共通IDでしょうか。そしてその昔に提唱された“One to Oneマーケティング”が現実味を帯びてきます。既にキャッシュレス決済が進んでいる中国ではWeChatなどの利用が少ないとWeb空間でのプレゼンスが低いため個人の信用格付けが低く、決済額の上限枠も低く設定されてしまいます。このようなSNS上の購買・行動履歴などが新しい信用情報の格付けとして利用される“新しい時代”になっているのです。

このようなIT(情報技術)が発展した現在、統計学やデータ解析の重要性はますます高まっており、特に機械学習(マシンラーニング)からディープラーニング(深層学習)に関心が移っています。そして、この基礎となるのが「ベイズ統計」の「ベイズの定理」です。

ベイズの定理:P(B|A)=P(A|B)*P(B)/ P(A)

“結果から原因を探る定理”、“人間の思考に近い”と言われており、従来の統計学が扱う平均値や分散などは登場しません。
この数式は、

〈左辺〉P(B|A)

Aが起こったときにBが起こる確率(事後確率)は、

〈右辺〉P(A|B)*P(B)/ P(A)

BのもとでAが生じる確率(尤度)にBが成立する確率(事前確率)を掛けて、Aが起こる確率で割った値に等しい
と理解できます。

例えば、私が前出の高円寺のお鮨屋さんに「“髪の短い人”と一緒にいた」という事実があったとします。これについて一緒にいた人が男性なのか、女性なのかをベイズの定理を使って判定してみましょう。P(男性|短髪)とP(女性|短髪)をそれぞれ求めてどちらが大きいかで判断すればよいのです。

Aを「髪が短い人」、Bを「男性」という集合だとするとP(A)は「髪が短い人の確率」、P(B)は「男性である確率」となります。P(A|B)は「男性全体で髪の短い人の割合」です。

〈1〉P(男性|短髪)=P(短髪|男性)*P(男性)/ P(短髪)
〈2〉P(女性|短髪)=P(短髪|女性)*P(女性)/ P(短髪)

次にデータが必要となりますが、100人のデータがあったとして「男性か女性か」「髪が短いかそうではないか」を数えたものがあると仮定します。男性50人、女性50人、男性のうち40人が短髪、女性のうち10人が短髪だったとします。
それぞれの確率は以下のとおりです。

確率

結果、上記〈1〉=0.8、〈2〉=0.2 となります。〈1〉P(男性|短髪)のほうが大きいので「髪の短い人と一緒にいたらその人はおそらく男性でしょう」と判定されます(事実、私は髪の短い男性といました)。つまり、得られたデータから“もっともらしさ”を計算し判断しているのです。このことから、ベイズ統計は確率的な意思決定を行っていると言え、殺人事件が起こったとき(結果)に死因(原因)は「現場で割れていた花瓶による後頭部の損傷か」「現場にあった飲みかけの紅茶に入れられた毒物かもしれない」など、原因として考えられる事象を列挙し、それらの発生確率を考慮し、最も確率の高い事象を原因として特定する、という人間の思考方法に近い統計手法と言われています。

ベイズ統計はデータ数の大小に関わらず、その時点でわかるデータをもとに判断を下しますが、当然データの量が多いほどその精度は向上してゆきます。そのため、前出のオフラインやオンラインの購買行動データ、位置情報、金融情報、共通ID化を含む精度の高いデータの“量の確保”が企業競争の変局点になるだろうと思います。

AI(ディープラーニング)が我々の行動履歴を分析し、興味関心がありそうな情報・広告・モノをメーカーやサービス提供側が抜けもれなく理解し、IoTにより消費者がアクションをする前にニーズを察知して、自動的に洗剤が補充(購買)されるという時代がやってくるでしょう。生活者の購買検討が効率化し、ショートカット化(いったん購買パターンができあがるとその購買パターンを踏襲するほうが簡単で安心)されると同時に、生活者の購買検討の無関心化を助長し、無関心な生活者は価格の低さで購入するという傾向がさらに強まるかもしれませんし、企業のマーケティング活動がいよいよオートメーション化されるかもしません。そうなると我々リサーチャーの存在意義はどうなるのかという疑問が頭をもたげますが、「人に興味があるからこの仕事をしているのだ」という前職OBのことばが昔に増して心に響いてきます。

平成の時代にガラパゴスに陥った日本ですが、もともと我々は“昭和”という時代に「インスタントラーメン」や「VHS」「WALKMAN」「うまみ調味料」など画期的なモノを多くつくり出してきました。日本は平成にも優れた技術や理念はありました。しかし、21世紀の顧客のライフスタイルや働き方を想像し、短期的な目先の利益ではなく、その想いが実現した社会はこうなるだろうというビジョンの部分が不足していたのだと思います。平成において足りないコト/足りなかったコトは、自分(人)の在り方を疑い続けることだったと思います。変えられるのは自分自身の意識だけです。自意識を変えない限り、結局はいまとは違う未来は見えてこない。大局観を持ちながら自意識を疑い、いまの自分で試行錯誤を繰り返す。そして殻をぶち破る。思考停止になり自分で歩くことをしなくなったところから人は無能になっていきAIにとって代わられるのだと思います。そうならないためにも「令和」という時代のスタートに自身の生き方、自分自身の気持ちを有り体に問うことが今一度必要なコトではないかと思います。

【参考文献】
完全保存版 平成31年を作った31人/「日韓断交」完全シミュレーション, 2019年4月号, 文藝春秋
吉野 太喜, 2019年, 平成の通信簿 106のデータでみる30年, 文藝春秋
ローレンス・J・ピーター,レイモンド・ハル, 渡辺 伸也 (翻訳), 2003年, ピーターの法則 創造的無能のすすめ, ダイヤモンド社
早嶋 聡史, 実践「ジョブ理論」ハーバード・ビジネス・スクール クリステンセン教授 最新マーケティング理論, 2018年, 総合法令出版
涌井 貞美, 図解・ベイズ統計「超」入門 あいまいなデータから未来を予測する技術, 2013年, SBクリエイティブ
ジョセフ・シュガーマン, 佐藤 昌弘(監訳), 石原 薫(訳者), シュガーマンのマーケティング30の法則, 2006年, フォレスト出版

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