第30回

海外調査とリスク管理
(新型コロナウィルス問題に寄せて)

海外調査とリスク管理(新型コロナウィルス問題に寄せて)執筆 : 一ノ瀬 裕幸

今年の1月以降、新型コロナウィルス(以下「COVID-19」)感染症が世界各地で猛威を振るっています。4月7日には、ついに日本でも東京都を含む7都道府県に緊急事態宣言が成される局面に至りました。楽天インサイトでも在宅勤務やテレワークの実施、調査対象者および調査実施者、お客様の外出を伴う調査の全面サービス中止(2020年5月6日まで:4月8日時点状況)を進め、感染防止策に注力して参りました。お取引先様や調査協力者の皆さまにも多大なご不便をおかけしていると思いますが、なにとぞご容赦ください。

COVID-19についてはいまだ不明点も多く、その医療対策等に関しては専門家にお任せしたいと思いますが、このコラムでは「海外調査におけるリスク管理」という観点から、今回のような感染症の流行をはじめとするリスク事象が発生した場合の対応について、昔話を含めて経験的に振り返ってみたいと思います。
実は海外調査市場分野において、規模の違いはありますが、感染症の蔓延に悩まされたのは今回が初めてではないのです。

0. 緊急事態はいつ、どこにでも起こり得ることを肝に銘じる
1. 初動の大切さと日頃の備え(万が一の事態に備えた連絡体制の整備)
2. 対策の徹底と継続的な情報収集・判断
3. 事態の終息・復旧後に向けた準備

0.緊急事態はいつ、どこにでも起こり得ることを肝に銘じる

どの地域、国においても、官民ともに相応の危機管理対策が成されていると思いますが、どうしても地域、国の状況による、もしくは文化や慣習の違いによる差異が発生し得るため、海外調査を実施する場合はケースバイケースのリスク・緊急対応が必要になります。

今回のように世界中を巻き込む事態は決して再発していただきたく無いのですが、実際に国際的な感染症被害を含むリスク案件は「何年かに1回程度」は発生しているのです。具体的に、私が海外調査に関わるようになってからの経験をたどってみると、WHO(世界保健機関)が常時監視している国際的感染症の中で広く知られたものだけでも、以下が挙げられます。

表 2000年代以降に流行した主な国際的感染症

時期 感染症の名称 主な流行エリア
2003年 SARS(重症急性呼吸器症候群) 中国広東省、香港など
2005年~ 鳥インフルエンザ(H5N1型、亜種を含む) 中国、東南アジアなど
2009年ほか 新型インフルエンザ(H1N1型など) メキシコ、米国、カナダなど
2012年~ MERS(中東呼吸器症候群) サウジアラビアなどの中東、韓国など
2014年ほか エボラ出血熱 ザイール、西アフリカ地域など

出所:WHO、国立感染症研究所(NIID)の公開資料を基に筆者まとめ

これらに限らず、マラリア、デング熱、はたまた季節性インフルエンザもリスク管理の対象となるでしょう。
また、地域、国によっては軍事クーデターや反政府デモに対する危機意識も持たねばなりません。天災も忘れてはなりません。2011年のタイ・チャオプラヤ川の洪水被害では、多数の日本企業を含む工業団地が水没したことがありました。

企業活動の国際化に伴って海外調査の要望は高まり、と同時にリスクや危機管理も国内だけを見ていては不十分であると言わざるを得ません。どのようなレベルをリスク、危機、そして緊急と捉えるかにもよりますが、「実はしょっちゅう起こっている」と認識すべきではないでしょうか。「起こって当たり前」とまでは考えたくありませんが、決して特殊な事案でないことはご理解いただけるのではないかと思います。

ただし、今までは感染症の蔓延が特定の国や地域で食い止められていたと思います。また、2000年代以前は、日本企業の海外調査の本数も今よりはずっと少ない状況でした。そのために、特定の国や地域への出張禁止や調査案件の延期・中止対応があっても、調査業界全体への影響は大きくなく、「何とかなってきた」面があります。
しかし…、今回のCOVID-19問題は、まさに緊急事態と言ってよいと思います。
これほど世界的に感染が拡大している例はあまりなかったと思われますし、インターネットやSNSを通じて、不確かな(時にはフェイクを含む)情報が瞬時に世界を駆け巡るようになったことも、人々の行動や心理に、今まで想定し得なかった大きな影響を及ぼしていると思えてなりません。
今後も過去の経験をそのまま活かすことが出来ない危機に遭遇するかもしれません。新しい事態への対応が迫られることも発生するでしょう。であれば、「いざ」という時に適切な対応ができるようにするためには、そもそも「平時」の備えや、現実的に可能な範囲で従業者への危機対応の教育訓練が欠かせない、と言えるのではないでしょうか?

1.初動の大切さと日頃の備え(万が一の事態に備えた連絡体制の整備)

今回のような感染症対策の場合、インターネット調査で対応できる領域はそれなりにあります。感染が終息に向かうまでネット調査を中心にプロジェクトを組み立てることが考えられ、実際にそうした動きが加速しています。可能な限りのオンライン化は、確かに選択肢のひとつです。
しかし、ネット調査比率が低く、オフライン(訪問面接や会場テスト、グループインタビュー等)が主流の調査手法である国や地域の場合、当然ながら調査事業は厳しい状況にさらされることになります。
まず、感染症や天災であれ政治問題であれ、いったんリスク事案が生じたら影響をゼロに食い止めることはほぼ難しいと思われます。そこは覚悟をした上で、少なくとも影響を最小化するために、初動を誤らないこと、信頼に足る情報収集と連絡のための体制を早期に確立する(確立しておく)ことが必須と考えられます。以下に箇条書きにしてみました。

<リスク事案が発生した場合の初動は?>

  • 自社社員(駐在員・出張者)、関係するパートナー社員、調査にご協力いただいているパネル会員等、関係者全員の安全確保が第一
  • できる限りの情報収集(自社社員及び取引先の安全確認、現地情報、行政府の対応状況など)
    → 日頃から、信頼性の高い情報入手ルートの確保
    (現地政府機関、日本大使館、顧客を含む現地駐在員・現地法人従業者、パートナー企業等)
  • 危険エリアへの出張禁止及び人員引き揚げ、出張者や現地駐在員への帰国命令等を早期に判断
  • 会議やイベント等の延期(中止)、業務の停止等の判断
  • 最悪の事態を想定して、考えられる限りの先手を打つこと
    → 時には現地での判断を先行させ、事後承諾を可とする権限移譲も

今回のような新しいタイプの感染症の流行の場合、当初は有効な治療法がわからない場合がほとんどのため、迅速な判断と、どちらかといえば保守的な意思決定を求められるケースが多いと思われます。

<「司令塔」の明確化と徹底、柔軟な連絡手段の選択>

  • 責任者の明確化(指名済みの場合も再確認)⇔ 本社&現地
  • 多様で、現地事情に即した連絡手段の確保

常に有効とは限らないかもしれませんが、国によっては取引銀行の現地支店、現地日系企業が集まっている組織(商工会議所など)からの情報が役に立ったことがあります。電話で直接お話できる関係性があるとたいへんありがたく、日頃のお付き合いの大切さを痛感したことがあります。

2.対策の徹底と継続的な情報収集・判断

次に、リスク事案の進行中は、まさに臨機応変な判断と対応が求められます。最初は有効だった策が、時間の経過とともに実情と乖離することも出てきますので。
もちろん、全部を放棄して帰ってきてしまえば「ここまでで終わり」とすることもできるのですが、顧客の要請や現地それぞれの事情もあり、単純には割り切れないことが多いものです。
(実際問題として、「引き揚げ」ばかりが対策にはなりません。私も場合によっては帰国予定を延期し、現地対応のために滞在を延ばすことがありました)。
具体的には、以下のようなことが思い起こされます。

<個々のプロジェクト継続判断と利害関係者向けの案内>

  • 「止めるものと、止めないもの」の見きわめ(顧客の「説得」を含む)
    → 時には「あきらめる」ことも肝心(仕事熱心な人ほど無理をしがちになる)
  • 例えば、在宅勤務やサテライトオフィスへの転換(で、どこまで乗り切るか?)
    (テレワーク環境を整えきれないこともあり…)
  • 現地のパートナー企業に対する気配り(復旧後への備え)

<対策費はどこまでかけてよいか、判断基準の目安を用意しておく>

  • 許容できる対策費のメドを「だいたい」でよいので明らかにしておく
    (海外旅行傷害保険等で、ある程度の出費は後からカバーできることがある)
  • 危険エリアからの退避費用など、社員の命に係わるような支出は現場に権限を付与しておく
  • 本社の指示を仰ぐ際の目安がわかっていれば、現場もやりやすい

<情報収集を継続し、状況の変化に合わせて柔軟に対応を変える>

  • まさにケースバイケース
  • 日頃から、現地に信頼できる情報収集ネットワークを維持しておくことが大切

なお、今の時点で改めて振り返ってみますと、外務省の「海外安全ホームページ」のマクロ的な確からしさは、おおむね信頼に値しました。速報性もそれなりに高かったと思われます。
https://www.anzen.mofa.go.jp/

海外に出張される方は、外務省の「たびレジ」に率先して登録するようにしましょう。重要なリスク関連情報を随時メールで提供してもらえます。
https://www.ezairyu.mofa.go.jp/tabireg/index.html

3.事態の終息・復旧後に向けた準備

感染症を含むリスク事案も、いつかは終わります。
海外調査プロジェクトに携わるビジネスパースンとしては、危機対策の初動が一段落したところで「事態復旧後にどうダッシュするか?」を考え始めなければなりません。
私の経験的には、リスク事案の終息が見えてきたころから調査プロジェクトの引き合いが堰を切ったように増えたことを記憶しています。ピンチをチャンスに転化させてこそ、プロと言えるのだと思います。

  • 復旧開始(事業再開)条件の検討・策定と、定期的なウォッチ・評価
  • 顧客キーマンとの継続的な情報交換
  • 終息後に備えて - (中止or延期した)連続調査等のトレンド確保を考え、提案する準備
  • 1年後以降 - データギャップをどう評価するか、仮説を用意しておく

海外調査プロジェクトの重要性は今後ますます高まると予想されますが、日本国内の場合とは違った注意点や備えが必要なことは上記に述べてきた通りです。たいへんな面もありますが、そうした備えがムダになることは、それはそれで喜ばしいのだと割り切るしかありません。
予想していなかった「いざ」という事態に直面したとき、適度な緊張を保ちつつ、柔軟で的確な対応ができるように準備をしておきたいものですね。

とにかく今は、COVID-19の一日も早い終息を願うばかりです。本コラムの読者の皆さまにおかれましても、ご自身の感染予防はもちろん、(無症状感染の可能性がある以上)他者にうつさない配慮を心掛けてくださいますよう、ご理解とご協力をよろしくお願いいたします。

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